「約束しただろ?もう柚歌の事泣かせないって。俺、約束破りたくないんだ。だから柚歌、分かってくれる?」

「うーん……分かった。そのかわり、明日向こうに着いたらすぐ連絡してね」

私は彼なりの優しさを、素直に受け止めることにした。

「柚歌?」

「何?」

「俺今までみたいにいつも側に居てあげられなくなるからさ、約束して欲しいんだ。もう自分を傷つけないって」

焦げ茶色の瞳が、まっすぐに私を見据える。
その瞳に初めて吸い込まれそうになった日の事を思い出し、胸の辺りがじんわりと温かくなった。

「泰輝がくれた貝殻、覚えてる?」

「うん。今思えば、ちょっと恥ずかしいけど」

「あれね、今も大事に取ってあるんだ。悲しい時もあの貝殻を見てると、私は一人じゃないんだって思えるの。だからもう平気だよ。泰輝を心配させるような事はしないから」

「そっか。それ聞いて安心した」

決まり事であるかのように、泰輝は小指を差し出した。いつの間にか私は、そこに自分の小指を絡める事に何の抵抗も感じなくなっていた。