「柚歌の事が心配だなぁ」

「どうして?」

「俺が側に居なくても大丈夫か心配。ちゃんと進級できるといいけど」

「ちょっと、何それ」

「俺が居なくてもしっかり勉強するんだぞ」

「分かってるよ」

押し寄せる切なさを胸に秘めたまま、私たちは何故かどうでもいいような事ばかりを口にしていた。

「一昨日ね、那月泣いて電話して来たんだよ。秀くんが行っちゃったよ〜って」

つい先日、秀くんは一足先にこの町を出て行った。電話の向こうで泣きべそをかいている那月を慰めながら、私は自らの身にも起きる事の重大さに、その時ようやく気が付いた。

「秀と那月ちゃんに比べたら俺たちはまだ近い方だよな。新幹線と電車乗り継げば二時間くらいだし。バイクで帰ってくるとなるともうちょっと掛かるけど……」

その言葉に頷いては見たものの、正直よく分からなかった。
近いのか遠いのか、それすら定かではない場所に、明日泰輝は旅立って行くのだ。

「泰輝は不安じゃないの?」

「うーん、不安じゃないと言ったら嘘になるけど、楽しみの方が大きいかな。自分の好きな事が勉強できるし、新しい友達もできる。もちろん、柚歌になかなか会えないのは寂しいけど」

そう言って、泰輝はくしゃくしゃと私の頭を撫でた。
もしかするとこの手が再び私に触れる日はもう来ないのでは無いかと、随分酷い考えが頭をよぎる。