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暖かな日差しが降り注ぐ堤防沿いに、見慣れないバイクが停まっていた。
携帯電話の画面を凝視していた泰輝は私を見つけると、堤防の上から勢いよく飛び降りて、いつものように小さく手を挙げた。

「バイク、買ったの?」

「兄ちゃんの友達が格安で譲ってくれた。柚歌に見せたかったから乗ってきたんだ。まぁ、家からここまで目と鼻の先だけど」

バイクのシートを撫でながら、泰輝は自嘲気味にそう言った。
歩いても五分かからない道のりをバイクで来たのかと思うと、確かに少し可笑しい。

「でも凄いね、泰輝これ運転できるの?」

「一応ね。一年経ったら柚歌も後ろに乗せてあげるから」

泰輝は財布から取り立ての二輪免許を出すと、私の目の前に得意げに掲げた。
ついこの間まではボロボロの自転車に乗っていた彼がなんだか急に大人になってしまったように見えて、私はちょっぴり寂しくなった。

砂浜に降り立つと、冬の冷たさはいつしかすっかり過ぎ去り、春の柔らかさを纏った波がゆらゆらと揺れていた。
優しい静寂の中を縫うように、二匹の紋白蝶がひらひらと飛んでいく。

「いよいよ明日だね」

漠然とした寂しさを吐き出すと、泰輝は日差しの中に溶け込んだかのように、穏やかな微笑みを浮かべた。