「柚歌ちゃんの事、那月からいつも聞いてるよ。今日から俺とも仲良くしてね！」

秀くんはそう言うなり、遠慮のない力加減で私の右手をガッチリ掴んだ。少々呆気に取られた私を、那月は横でニヤニヤしながら見ている。

「こいつは俺の友達で斎藤泰輝(さいとうたいき)。現在彼女なし！」

そう紹介された秀くんの友人は、180cmは優に超えているであろう大きな背丈と、高校生らしからぬ妙に落ち着いた雰囲気を持ち合わせていた。

彼は秀くんの少々コミカルな言い方に、呆れたように小さくため息をついた。

「まったく。一言余計なんだよなー、秀は」

「だって、本当の事だろ？」

「ほっとけよなー」

二人やり取りのくだらなさに、那月とつい顔を見合わせる。

「初めまして。柚歌ちゃん、よろしくね」

泰輝くんはいたってシンプルな挨拶だけを口にした後、満面の笑顔を私に向けた。
混じり気の無いその笑顔は那月が言った通り、彼が"凄くいい人"である事を物語っていて、緊張が少し和らいだ。

「初めまして、柚歌です。よろしくお願いします」

彼の眩しい笑顔に負けないよう、私は強張り気味の頬を精一杯引き上げた。