(やぶ)をかき分け、下草を踏んで森の中を進んだ。
 カイが見つけた道には、ところどころ木の枝の先にスプーンやフォークが結びつけられていた。カイ自身が結んだものもあるが、以前から結ばれていたものもある。古びた紐を指さして、カイがそう教えた。
 河原に着くと、グリーンアイは流れる水にじっと見入っていた。
 川の流れは緩やかで、対岸までは『施設』の中庭を二つ横切る程度の距離があった。渡れない距離ではないのかもしれない。けれど、一度も泳いだことのないゲルダたちは、川を渡ろうとは思わなかった。
 渡ったところでその先に続くのは深い森ばかりだ。
 どこかへ行きたいとか、あるいは行けるとか、思っているわけでもなかった。
「外は、広いんだね」
 グリーンアイは深い息を吐いた。
 小石の中から緑色の硝子片を探してきたカイが、グリーンアイにそれを渡した。
「きみの目の色と似てる」
 グリーンアイは硝子の欠片を握りしめ、抱きしめるように胸の前で両手を重ねた。
 雨の雫を残した木々の葉が陽に輝き、川面で光が跳ねていた。水の音と、それに混じって遠くに聞こえる鳥の声にしばらく耳を澄ませる。
「ありがとう。来てよかった……」
 それから数日後、六月の終わりにグリーンアイは『施設』を去った。
 カイとゲルダは森の隅の唐檜(からひ)の根元に緑色の欠片を埋めた。