「H2120C6F」
 機械の音声に呼ばれて、ゲルダは無人のヘリが待つ中庭に出た。
 十二月の終わり。今年最後の『集荷』のために、医療ロボットがゲルダの体を確認する。スキャンの中身はゲルダの前にあるディスプレイに表示された。
 目は六十五歳の老婦人に。
 腎臓は三十五歳の女性に。
 肝臓は五十歳の男性に。
 表示されるレシピエントの情報をゲルダは黙って見ていた。『神様のギフト』を受け取り、健康と幸福な人生を取り戻すたくさんの人たち。
 どうか幸せになってほしい。ゲルダの体をあますところなく分配して。
 心臓は十六歳の少年に。金色の髪の青い目をした男の子。少しだけカイに似ている。
 ゲルダの子宮を受け取るのは十八歳の女の子だった。子どもを産み『親』になることを許されたオリジナルの女の子。
 大腸や小腸や皮膚や骨、全部大切に使われる。
 綿密な移植計画。
 促されて手のひらを開いた。何も持っていないことを確認し、医療ロボットはゲルダと自分自身をヘリに格納した。
 座席の正面に周囲の様子を映したディスプレイがあった。雪に覆われた森がその一つに見えた。機体が浮き上がり、白い森が眼下に遠ざかってゆく。
 口に当てたマスクからガスが流れ込んでくると、ゲルダの意識が曖昧になった。


 遠くなる意識の中でゲルダは思う。
 ゲルダたちの体は、最初から全部ほかの人のものだった。ゲルダたちはそのために『造られた』のだから、それで構わなかった。
人の役に立つことは、とても幸せなことだ。
 
 けれど……。
 カイに会えなくなるのが悲しいと思うこの心は誰のものだろう。

『僕の心がどこかに消えてしまったら、ゲルダが探しに来てね』

 カイ……。

『忘れない。ゲルダの瞳の色も髪の色も、ずっと……』


                     了


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