教師になりたいと思ったのは、高校卒業を控えたころだった。
 高校という場所に未練があった…といえば否定はできないけど、ここはわたしにとって特別な場所だったから、もう少しここにいたいと思った。
 高校生のときにもらった言葉は、その後の人生を左右することもある。
 前に進むきっかけをくれたり、立ち直るチャンスをくれたり、そんな気付きひとつですべてが一気に変わってしまうこともある。わたしがそうであったように。
 そんな気付きを、これからやってくるまだ見ぬ新入生たちに伝えていきたい、なぜかそう思ったのがきっかけだった。
 わたしは、誰よりも真面目にしてきた。
 真面目に、真面目に教師を目指して必死に努力を重ねてきたつもりだった。
 それなのに、それなのにだ。真面目すぎるだけにどれもこれも空回りばっかりで、うまくいかないことが増えた。
「あ…」
 入口のところで段ボールいっぱいの新品のバスケットボールを台車で運んでいる上林先生の姿が目に入った。
『手伝います』と言って出て行けばよかったのだけど、今のわたしにはそんな余裕がなくて、去って行くその姿をしばらく眺め、立ち尽くしてしまった。
 今の抱えているもやもやした気持ちを上林先生に相談したらどうなるだろうか、などと考えては頭を振る。いくら彼が博識で頼りになる先生だからと言って、こんな私情にまみれた相談なんてできるはずがない。
 明日で、実習生としての生活が終わる。
 完璧を意識した仮面がはがれ、ただの大学生に戻る。
 それなのにどうしたらいいかわからなかった。