『やったな、森本!』
 珍しく真ちゃんが大声を上げて、わたしの前に走って来たから、正直とても驚いた。
『真ちゃん?』
『よくやった!優勝したんだってな?』
 眩しいほどの笑顔があまりに嬉しそうで、これは夢なんじゃないかって思えたくらい。
『真ちゃん、知ってたの?』
 体から重石が取れて、まるで羽が生えたのかと思えるくらい軽々走れたことよりも、信じられなかった。
『わたしの、試合結果…』
『ああ、おまえ、頑張ってたからな。心配してたんだぞ』
『え…』
 気に、してくれたの?思ったら涙が出た。
『よくやったな!本当によくやった!』
 頭の中が真っ白になった。
『真ちゃん…』
 目の前の世界がきらきら輝いて見えた。
 大好きだった彼は、いつもそうやってわたしに幸せの瞬間をくれた。
 彼はわたしを特別に思っていない。
 そんなことは態度でよくわかっていたけど、それでも嬉しかった。
(真ちゃん…)
 何年たっても変わらない。
 どれだけつらくなっても、いつも記憶の中の彼は笑ってくれた。
 結局、高校時代のわたしの恋は実のならなくて、子どもの頃に憧れた少女漫画のような恋とも遠い存在になってしまったけど、わたしは後悔なんてしていない。
 彼を思い続けた高校生活は、わたしにとって様々なものを与えてくれた。