いつも、楓の葉と一緒に小さな草花の押し花を持ってきてくれるのが嬉しかった。その季節をそのまま閉じ込めて、一緒に過ごそうとしてくれているみたいで。
だからそんな日々の思い出ごと、消えてしまおう。
「好きだった。お前の、篠山永遠子のこと」
「……うん、ありがとう」
「もっと早く顔見せろよ」
「子どもの前には出て行きづらくて」
「誰が子どもだよ」
「そういうところだよ」
零れ落ちた雫が月明かりを受けてキラキラと煌めいている。泣き笑いなんて似合わないのに、それでも目が離せなくて、困ってしまう。
だから、もう。
「……君の記憶の中に、私を残してくれてありがとう」
戻れない過去にも、明日に続く今にも、さよならを告げよう。
「幸せになってね」
その日、深い秋の凍えるような一陣の夜風と共に、たった一つの想いが空に溶けていった。
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