「……センチメンタルだね」
「本当だわ。お前のせいだからな、絵も描けないのに美術部の副顧問引き受けて白い目で見られてんの」
「自分で立候補したんじゃん。職員会議で」
「見てたのかよ。呪われてるわ、俺」


 笑いながら私の方を顎で示すのを見て、思わず噴き出す。

 本当だね。

 確かに、呪いでもかけてしまったかもしれない。あの絵一枚で、こんなにも縛られてしまう優しい君に。


「……解きに来たよ。そんな呪い」
「……」
「もう、忘れてしまえば良い」


 秋の夜長には、センチメンタルがお似合い。

 例えそれが世の真理だったとしても、それでもこの人には似合わない。だから葉の色が移り変わるように穏やかに、どうか、忘れてほしい。



「……無理なこと言いますねぇ、優等生」
「大丈夫。美野原なら……楓なら、大丈夫だよ」
「酷いユーレイだな。全くさぁ」


 くしゃりと笑みを溢して。それなのに泣きそうで。


 あの頃なら絶対に見せなかったような表情を浮かべて、愛おしそうにこちらを見てくれる。


 それだけでもう、充分だよ。



「……ありがとう、忘れないでいてくれて」


 秋になる度に律儀に手を合わせに来てくれて。


「この世のことに、少しだけ介入して消えるね」
「どうせロクでもないことするんだろ」
「そういう言い方は良くないよ」