月明かりに照らされたせいで、昼間とは違って少し明るく見える髪色。

 そういえば昔、水泳を習っていたせいでどんどん色素が抜けていって、生活検査のたびにチクチク言われるって、愚痴ってたっけ。


「……死ぬ間際、意識不明のまま生きてた頃に、絵画コンクールの結果が発表された。優勝は見事にそいつのもので、俺は絵を見て愕然とした」
「……」
「あんだけ嫌だって言ってたくせに、いつもの美術室から見える紅葉描いてるし、俺への当て付けかってくらい上手いし。綺麗だし。本当いつ描いてたんだよ」


 ふわり、二人の間の空気が動く。



「……なぁ、何でタイトル『楓』にしたの」



 じり、と詰められた距離に、胸の奥が痛いほど熱くなった。その瞳が、真っ直ぐにこちらを捉えている。


 ──ああ、泣いてしまいそうだ。



「なあ、何で?」


 何でなんて、そんなの。


「……こんなことなら、会いに来なければ良かった」
「ざんねん。もう会っちまってる。それに俺は、会えて良かったって思ってる」
「そんな、だって未練が無くなったら成仏するの、お決まりなんだよ。それならずっと……ずっとずっと、隠れて見守っておけば良かった!」
「させるか」



 逃げ出しそうになって立ち上がろうとした私の両腕は、あっという間に捕まる。


 掴まれた手首が熱い、気がする。わからない。それは自分が魂だけの幽霊だからか、それとも今にも逃げ出したいくらいの現実のせいか。



 一つ確かなのは、かつて無いくらい、その距離が縮まったということで。



「話、終わってないから」
「……」
「あの日。お前が亡くなった日。俺、学校まで走った。美術室まで走って、ドア開けて、いつもお前が座ってた椅子の前に立った。そうしたら、絵と違ったんだよ」