「同じ部活で。廃部逃れの為の数合わせで幽霊部員だった俺とは違って精力的だったそいつは、いつも植物の絵を描いてて」
晩秋の夜、日付も変わろうという頃合いは、何でだか人の心の奥底にある何かを呼び起こす。
「カタバミ、エンドウ。ナズナ、オオイヌノフグリ。桜とかも植わってんのにさ、どこで描いてんだよって言いたくなるくらい、校舎の端とかにいる雑草ばっか描いてた」
「……オオイヌノフグリ、良いじゃん。可愛いじゃん」
「どこがだよ。俺はそれを、美術室にたまーに顔出したときだけスケッチブック見せてもらってて。それでどうせなら、そこの窓から見える紅葉でも描けよって、言ったんだよ。秋で綺麗に赤くなってるからって」
きっと、それは余計な思い出まで、掘り起こすんだ。
「そうしたらさ、秒で断られた。『紅葉って散るから』って。当たり前だろ。散るだろ。世の中、限りある命は全部散るんだよ」
「元も子もない言い方だね」
「カタバミだってナズナだってそうだろ。なのに桜とか椿とか、中庭に植わってる立派な花は、散るのが見えるから嫌だって。『雑草は元気に生えてるときしか存在に気づかないでしょ』って、笑いながら言いやがった」
懐かしむような物言いに優しさを感じる。長い髪が全て舞い上がってしまいそうなほど、冷たく鋭い風が吹き抜けていった。
「そいつが難病抱えてたって知ったのは、死んだ後」