「今日混んでるわねー」
「ですね」
わずかに黄色になり始めた銀杏が見える、学食の一番奥。引き摺ったらうるさそうな薄クリーム色の2人掛けテーブルに、ほぼ同時にトレーを置いた。
昼休みはこの学食は大混雑で、急いでクラス棟から来ないと食欲旺盛な男子高生に全ての席を占拠されてしまう。
「あと半月で中間テストかあ。まだ日程発表されてませんけど」
「去年と同じなら文化の日前後でやるわね。あーあ、2学期制の学校は中間も期末も2回でいいってのに……」
「その分出題範囲が狭いと思って我慢しましょう、ふーさん……うう、気が重いぜ……」
スプーンを置いて大げさに頭を抱え、茶色のショートを振り乱して悶える和桜に、思わず吹き出しそうになる。
「ふーさんは受験勉強まっしぐらって感じですか?」
「まあ国立狙ってるからね、塾で過去問地獄って感じ」
「でも受かればハッピーなキャンパスライフですもんね! いいなあ、アタシも今のうちから頑張らなきゃ!」
器に入らないようにロングの黒髪を後ろに払い、鶏唐揚げのみぞれ煮を食べながら、箸休めに彼女の百面相を楽しんでいた。
私、花塚文葉と、目の前で先生のプリントが見にくいと文句を言っている白沢和桜の出会いは1年半前。お手軽キャンプをやる部活に後輩として入ってきた。
キャンプに詳しかった先輩が卒業するってことで3月末で解散になったけど、彼女とは今でも大の仲良し。同じ文系選択だった、というのも大きいかもしれない。
とはいえ、受験の2文字がのしかかり、放課後に2人でファミレスに入る時間も徐々に減っている。そんなわけで、昼休みはたまに、こうして学食に集まって、50分間のおしゃべりタイムを取っていた。
「うー、寒くなってきたなあ」
「この前の雨で一気にだよね」
縮こまる白帆。私より数センチ低い、160もない彼女が、余計に小さく、可愛らしく見える。
白のカーディガンの上にベージュのマウンテンパーカー、ダークブラウンのスカートにはホワイトのドット。私服を毎日選ぶってのも大変だけど、季節感を反映できるのは素敵。秋色コーデに包まれながら、彼女はペットボトルのレモンティーに口をつけた。
「そうそう、ふーさん、あれ行きません? 『白と嘆きの花束』、すっごい泣けるらしいですよ」
「あ、いいね、気になってた! あそこのシネマでやってるよね?」
「多分。あと、Silver Good Newsの新しいMV見ました? 今回の良いですよ!」
「うっそ、見てない! あとでチェックする!」
他愛もない話、それが楽しい。まるで学年も越えた親友のよう。
「いやあ、秋は過ごしやすくて最高ですね! アタシ、一番この季節が好きです。春生まれですけど」
クスクス笑いながら、鼻歌を鳴らす。機嫌が良いときに奏でる、曲名も知らない歌。
「あ、次の時間、移動教室だ! アタシ、先に出ますね!」
「ん、行ってら。私はもう少しここいるよ。映画の件、また連絡するね」
「よろしくお願いしますっ」
私の分のトレーと食器も重ねて、返却口に運んでいく彼女。やがて、混雑を避けるために遅めに来た人を華麗によけながら、出口へ向かっていった。
「『白と嘆きの花束』、と」
スマホで上映時間を調べる。さすがじわじわヒットしている悲恋もの、いつもの場所で1日5回もやっていた。
「映画……」
口を結んで項垂れる私を慰めるように、嘲笑うように、後ろの窓を風が叩いた。
和桜とこれを見に行くのか。運命ってのはどうにも悪趣味で、厄介で。
まるで学年も越えた親友のように見える私達だけど、私は彼女をそんな風には見られない。
恋愛感情抜きでは、彼女を見られない。
「ですね」
わずかに黄色になり始めた銀杏が見える、学食の一番奥。引き摺ったらうるさそうな薄クリーム色の2人掛けテーブルに、ほぼ同時にトレーを置いた。
昼休みはこの学食は大混雑で、急いでクラス棟から来ないと食欲旺盛な男子高生に全ての席を占拠されてしまう。
「あと半月で中間テストかあ。まだ日程発表されてませんけど」
「去年と同じなら文化の日前後でやるわね。あーあ、2学期制の学校は中間も期末も2回でいいってのに……」
「その分出題範囲が狭いと思って我慢しましょう、ふーさん……うう、気が重いぜ……」
スプーンを置いて大げさに頭を抱え、茶色のショートを振り乱して悶える和桜に、思わず吹き出しそうになる。
「ふーさんは受験勉強まっしぐらって感じですか?」
「まあ国立狙ってるからね、塾で過去問地獄って感じ」
「でも受かればハッピーなキャンパスライフですもんね! いいなあ、アタシも今のうちから頑張らなきゃ!」
器に入らないようにロングの黒髪を後ろに払い、鶏唐揚げのみぞれ煮を食べながら、箸休めに彼女の百面相を楽しんでいた。
私、花塚文葉と、目の前で先生のプリントが見にくいと文句を言っている白沢和桜の出会いは1年半前。お手軽キャンプをやる部活に後輩として入ってきた。
キャンプに詳しかった先輩が卒業するってことで3月末で解散になったけど、彼女とは今でも大の仲良し。同じ文系選択だった、というのも大きいかもしれない。
とはいえ、受験の2文字がのしかかり、放課後に2人でファミレスに入る時間も徐々に減っている。そんなわけで、昼休みはたまに、こうして学食に集まって、50分間のおしゃべりタイムを取っていた。
「うー、寒くなってきたなあ」
「この前の雨で一気にだよね」
縮こまる白帆。私より数センチ低い、160もない彼女が、余計に小さく、可愛らしく見える。
白のカーディガンの上にベージュのマウンテンパーカー、ダークブラウンのスカートにはホワイトのドット。私服を毎日選ぶってのも大変だけど、季節感を反映できるのは素敵。秋色コーデに包まれながら、彼女はペットボトルのレモンティーに口をつけた。
「そうそう、ふーさん、あれ行きません? 『白と嘆きの花束』、すっごい泣けるらしいですよ」
「あ、いいね、気になってた! あそこのシネマでやってるよね?」
「多分。あと、Silver Good Newsの新しいMV見ました? 今回の良いですよ!」
「うっそ、見てない! あとでチェックする!」
他愛もない話、それが楽しい。まるで学年も越えた親友のよう。
「いやあ、秋は過ごしやすくて最高ですね! アタシ、一番この季節が好きです。春生まれですけど」
クスクス笑いながら、鼻歌を鳴らす。機嫌が良いときに奏でる、曲名も知らない歌。
「あ、次の時間、移動教室だ! アタシ、先に出ますね!」
「ん、行ってら。私はもう少しここいるよ。映画の件、また連絡するね」
「よろしくお願いしますっ」
私の分のトレーと食器も重ねて、返却口に運んでいく彼女。やがて、混雑を避けるために遅めに来た人を華麗によけながら、出口へ向かっていった。
「『白と嘆きの花束』、と」
スマホで上映時間を調べる。さすがじわじわヒットしている悲恋もの、いつもの場所で1日5回もやっていた。
「映画……」
口を結んで項垂れる私を慰めるように、嘲笑うように、後ろの窓を風が叩いた。
和桜とこれを見に行くのか。運命ってのはどうにも悪趣味で、厄介で。
まるで学年も越えた親友のように見える私達だけど、私は彼女をそんな風には見られない。
恋愛感情抜きでは、彼女を見られない。