リトルミノタウロスを倒した後、俺はいったんダンジョンから帰還した。
ちなみにリトルミノタウロスからは魔石Rを三個もゲットできた。
リトルミノタウロスから得た魔石R三個は『魔導加速装置』と交換した。
こいつを装備して稼働状態にすると、装着者のスピードを五倍に引き上げてくれる。
稼働時間は一回につき十五分。
その後は一時間の待機時間が発生する。
魔石Nに換算すると百五十個分で、ちょっと勇気がいる決断だったけどな。
何せ普段の俺の稼ぎでいえば、十五日分くらいだ。
だけど、『魔導加速装置』は後々の戦いで役に立ってくれそうだし、先行投資として入手するのはアリだろう。
見た目としては小さな腕輪で、俺はさっそく左腕に装着している。
「よう、ゼノ」
と、ギルドの入り口前で、冒険者たちから声をかけられた。
「お前が『月光都市のダンジョン』の第十二層まで到達した? 嘘だろ」
「確か、十二層には中ボスのリトルミノタウロスがいるんじゃ……」
「ああ、なんとか倒せたよ」
驚く冒険者たちに、俺は苦笑交じりに言った。
俺が持っているのは魔石とリトルミノタウロスの角。
こいつを換金すれば、それなりの金になる。
と、その冒険者たちがいきなり俺を取り囲んだ。
ん、なんだ?
「おい、まじで素材を持ってんのか」
「へへへ、かなりの金になりそうだな」
「なあ、そいつを俺たちによこせよ」
「お前ごときがリトルミノタウロスを倒せるなんておかしいよな? もしかして他のパーティの手柄を横取りでもしたんじゃねーの?」
いきなり絡まれてしまった。
いや、最初から絡んでくるつもりだったのかもしれないな。
俺は最底辺の冒険者で、しかもソロだ。
誰からも見下されてるし、誰にも守ってもらえない立場だ。
「だからこそ――自分の身は自分で守るしかないよな」
「何?」
「ごちゃごちゃ言ってねーで、早くよこせよ!」
冒険者の一人が殴りかかってきた。
いきなり暴力に訴えるとは……血の気の多い奴だ。
奴らはおそらくレベル50前後。
その一撃は十分なスピードが乗っていて、以前の俺なら避けることも防ぐこともできず、ぶっ飛ばされていただろう。
だけど、今は違う。
「見える――」
短期間とはいえ、ダンジョンに潜ってハードな戦闘を何度も経験し、少しは度胸もついたかな。
レベルも三つ上がったし、奴らの攻撃がよく見える。
とはいえ、さすがに能力差を逆転するほどじゃないだろう。
「だから――こいつの出番だ」
さっそく頼むぞ、『魔導加速装置』。
俺は装置を稼働状態にした。
「っ……!」
両足に、力がみなぎる。
地面を、蹴る。
ぐんっ!
すさまじいスピードで、俺は奴らの間を駆け抜けた。
「なっ……!?」
奴らは呆気に取られている。
「ちいっ!」
一人が殴りかかってきたが、俺は余裕で回りこんで避けた。
それから膝カックンを仕掛けて倒す。
「うおっ!?」
さらに別の奴にも超スピードで回りこんで膝カックン。
もう一人も、残りの一人も――。
全員に膝カックンして、その場に倒れさせた。
「な、なんなんだ、お前――」
「は、速すぎる……化け物か」
純粋にレベルの話でいえば、彼らがいずれもレベル50前後で俺はレベル39――俺の方が弱い。
けど、スピードをここまで引き上げれば、さすがに圧倒的なアドバンテージを取ることができる、ってことだ。
呆然とする彼らを見下ろし、俺はギルドに向かった。
別に本格的に喧嘩したいわけじゃない。
ギルドにこいつらの狼藉を報告するくらいでいいか。
「あ、でも、次に因縁付けてきたら『本気』で行くからな」
いちおう釘をさしておく。
「ひ、ひいいいいいいい」
「も、申し訳ありませんでしたぁぁぁ!」
土下座する彼らを尻目に、俺はギルドの建物に入っていった。