役立たずの冒険者、スキル覚醒で得た魔剣と魔道具で世界最強に至る

『ゼノ・フレイザーのユニークスキル【アイテム収納(極小)】はEX(エクストラ)スキル【アイテム交換所】へと進化しました』



 声が響き渡る。

「な、なんだ……?」

 俺は呆気に取られていた。
 理解が追い付かない。

「スキルが進化した、って……?」



『「アイテム交換所」へのアクセスを開始します』



 ヴ……ン。
 うなるような音とともに、前方の空間に光り輝く文字が浮かび上がった。

――――――――――――――――――――――――――
『アイテム交換所(ランク1)』

 交換可能アイテム一覧

・クロスボウ&魔法の矢1本(即死タイプ)……魔石R2個と交換
・魔法の罠・低級(爆破タイプ)……魔石R2個と交換
・魔法弾・低級……魔石R1個と交換
・薬草×10……魔石N10個と交換
・毒消し草×10……魔石N10個と交換
・木のお守り……魔石N5個と交換
・丈夫なナイフ……魔石N3個と交換

※アイテムは随時追加されます。
※アイテムを他者に譲渡や売買することはできません。その場合、アイテム自体が消滅します。
※交換アイテムが一定数を超えることで『アイテム交換所』のランクが上がります。
――――――――――――――――――――――――――

 そう記されていた。

「これって、まさか――」

 今までは異空間にアイテムを『収納』するだけのスキルだった。
 けど、これは――。

「魔石と交換することで、アイテムを『入手』できるスキル……?」



 俺は第十層まででいったん探索を切り上げ、ギルドに戻ってきた。

「見ろよ、『ハブられ者』のゼノが戻ってきたぞ」
「どのパーティからも『無能』って言われて、参加拒否されてるのよね」
「スキルが『役立たず』過ぎるからなー。仕方ないんじゃね?」

 あちこちから俺に対する嘲笑が聞こえる。

 冒険者は実力の世界だ。
 最底辺に位置する俺は、常にこういった嘲笑や蔑みにさらされていた。

 最初は嫌な気分になったり落ちこむこともあったけど、最近では完全に慣れたものだ。
 彼らを無視して、俺はギルドの窓口までやって来た。

 魔石やモンスターから奪い取った素材などを換金する。
 ただし、今回は魔石についてはすべて換金するのではなく、大半は手元に残した。
 素材と一部の魔石を売るだけで、当面の生活費はなんとか確保できた。

 宿に戻ると、床の上に魔石を並べる。

「さて、と。いよいよ進化したスキルを試すときが来たぞ」

 胸がワクワクしていた。

「アイテム一覧を見せてくれ」

 呼びかけると、前方に光り輝く文字が表示された。

――――――――――――――――――――――――――
・クロスボウ&魔法の矢1本(即死タイプ)……魔石R2個と交換
・魔法の罠・低級(爆破タイプ)……魔石R2個と交換
・魔法弾・低級……魔石R1個と交換
・薬草×10……魔石N10個と交換
・毒消し草×10……魔石N10個と交換
・木のお守り……魔石N5個と交換
・丈夫なナイフ……魔石N3個と交換
――――――――――――――――――――――――――

 とりあえず、現状で交換可能なアイテムはこれだけだ。

「うーん……欲しいものもあれば、必要ないものもあるな」

 魔石のところにあるRとかNとかいうのは、魔石のランクを示している。
 SSRやSR、R、N……といったふうに魔石にはその価値に応じてランク付けがされているのだ。

 ちなみにN50個でR1個と同じ価値である。
 俺の手持ちはNの魔石が58、Rが1つだった。

「魔法の罠は内容次第で使えそうだけど、もう少し詳しい説明はないのか……」

 つぶやくと、

――――――――――――――――――――――――――
・魔法の罠・低級(爆破タイプ)……魔石R2個と交換

 時間や場所を指定し、範囲内に入った敵すべてに爆破魔法をかける。爆破魔法の対象は敵のみで、周囲の建造物などにはダメージを与えない。
――――――――――――――――――――――――――

「おお、追加で説明が出るのか」

 魔法の罠……か。
 ダンジョンで使えるんじゃないだろうか。

 敵にだけダメージを与えるみたいだから、ダンジョン崩落の危険もない。
 使い方によっては、敵を一網打尽なんてこともできるはずだ。

 手持ちのN58個のうち50個をR1個に換算し、合計でR2個にして『魔法の罠』と交換した。
 俺はさっそくダンジョンに行ってみた。

 低階層はすでに勝手知ったる我が家のようなものだ。
 比較的弱く、数が多いモンスターが集まるポイントまで一直線。

 俺の狙いは、第七層だった。
 ここには巨大アリのモンスター『ビッグアント』の群生地があるのだ。

 奴らが通りそうなルートに、さっき入手したばかりの『魔法の罠』を仕掛けた。

「上手くかかれよ……」

 俺は物陰で様子を見る。

 待つこと三十分ほど。

「――来た」

 俺は小声でつぶやいた。

 二十四体のビッグアントがゾロゾロと歩いてくる。
 あの数だと、俺が一人で戦ってもさすがに勝てない。
 数の暴力で打ち倒されるだろう。

 だから、普段なら奴らが通るルートを避けて、先へ進むのだが。

「こいつがあれば――」

 俺は慎重にタイミングを計る。

 罠の効果範囲は直径十五メートル。
 その範囲内に奴らが全部入れば――。

 俺はさらにタイミングを計る。

 ぞろぞろぞろ……。

 ビッグアントたちは隊列を組み、一体、また一体と範囲内に入っていく。

 やがて――最後の一体が範囲内に足を踏み入れた。

「……よし、全部入った! 【起爆】!」

 俺は罠を作動させるための呪言を叫んだ。

 ごうっ!

 罠の内部に無数の青い火柱が立った。

 火柱一本につきビッグアント一体を包みこむ。
 火柱が消え去った後には、焼け焦げて動かなくなったビッグアントたちが転がっていた。

 まさしく一網打尽である。

「おお、こんなに簡単に全滅させられるのか……!」

 俺は半ば感動していた。

 ころんっ……!

 ビッグアントたちの体から魔石が転がりでる。
 ランクはいずれもNで、一体につき5個――合計で120個である。

「大漁だ」

 俺はホクホク顔だった。

 本来ならNの魔石なんて、俺の腕じゃ一日に10個が限度だろう。
 一気に12日分くらいの稼ぎを得てしまったわけだ。

 EX(エクストラ)スキル様様だった。

「そうだ。これを使えば、また『魔法の罠』を入手できるな。今度はもっとたくさんの魔石を落とすモンスターを大量に倒せば――」

 無限ループ。
 罠でモンスター群を倒し、得られた魔石でまた罠を入手し、その罠でまた……。

「これは――使える!」

 俺はワクワクしてきた。



 残った魔石Nが28個あったので、『薬草×10』『毒消し草×10』『木のお守り』『丈夫なナイフ』と交換しておいた。
 これで手持ちの魔石はゼロだ。

「しまった、つい調子に乗っていっぱい入手したけど、こんなに持ちきれないぞ……」

 俺は両手に抱えたアイテム類を見て、ため息をついた。

 これを全部持ったままダンジョン探索するのは、さすがに無理だ。
 両手が塞がっちゃうしな。

 かといって、荷物袋は探索用の道具がけっこう入っているから、これ以上はあまり入らない。

「どうしよう――」

――――――――――――――――
 入手したアイテムを『アイテム交換所』内の『収納エリア』に移動させることができます。
 移動しますか?
――――――――――――――――

「えっ、これを異空間とかに入れられるのか?」

 だとしたら、めちゃくちゃ便利だ。
 俺は入手したアイテムをすべて収納エリア内に移すように念じた。

――――――――――――――――
 移動完了。
 指定したアイテムは術者の意志により、いつでも取り出すことができます。
――――――――――――――――

「おお、うまくいった!」

 今後はアイテムを入手しすぎた、とかそんなことは一切気にせず、ガンガン入手できるな。

 まあ、そのためにはもっともっと魔石を手に入れなきゃいけないわけだけど――。
「もう少し下の階層まで行ってみるか」

 俺は決断した。

 最高記録の第十層までは、あと三層。
 けど、今日はもっと先まで行けそうな気がする――。

 とにかく魔石を稼ぎたい。
 以前の俺と違って、アイテム交換所の便利アイテムをいくらでも使えるんだ。

 もちろん魔石を消費するという条件付きだが。
 ともあれ、以前の俺よりはるかに強くなっているのは間違いないだろう。

 モンスター相手に効果のある武器やアイテムをいくつも呼び出せるし、また収納エリアにも保管してある。

 俺はさらに下の階層へと進んだ。

 ちまちまとモンスターを倒し、魔石を回収しつつ、進む。
 第八層、第九層、第十層……そして。

「よし、行くぞ……ここからは未知の領域だ」

 俺は第十一層へと降りた。

 危険は当然ある。
 けど、ドキドキとワクワクの両方がこみ上げていた。

 自分が強くなった実感と。
 その強さを試してみたいという高揚感。

 両方が俺の中を心地よく駆け巡っていた。



 しばらく進むと、モンスターの気配を感じた。

 俺は冒険者としては底辺といっていい弱さなんだけど、『モンスターの気配を察知する』能力に関しては自信がある。

 というか、ソロなので気配に敏感じゃないと、いきなりモンスターの不意打ちを食らって死ぬ、なんてこともあり得るからな。
 自然と鍛えられたのだ。

 俺は物陰に隠れ、周囲を見回した。

「……いた。あれか」

 ちょうど三時の方向に、全長一メートルほどの巨大なムカデを発見する。
 数は十五体。

 見た目が気持ち悪いので、あまり正視したくない軍団である。

「さっきビッグアントに使ったのと同じ罠アイテムを使ってみるか――」

 俺は魔石を消費して、アイテムを入手する。
 さっきと同じ爆撃魔法の罠アイテムだ。

「上手くかかってくれよ……」

 俺は念を込めながら、罠を設置した。
 ただしビッグワームの動きは、ビッグアントほど整然としていない。

 全部がきっちりと罠の中に収まる……という動きをしてくれない。

「モタモタしていたら、大半が効果範囲の外に出てしまう。ここでいくか……!」

 十五体中、効果範囲に入っているのは十二体。
 けど、たぶんこれが限界だろう。

「【起爆】!」

 俺は呪言を唱えた。

 ごうっ!

 青い火柱とともに十二体のビッグワームが倒れる。

 Nの魔石が一体につき七個――合計で八十四個、その場に転がった。

 だけど、まだ三体が生き残っている。

 しかもその三体はどうやら俺に気づいたようだ。

「こいつらは直接やるしかない――」

 剣を抜いて立ち向かう。

 ざんっ!

 一体を正面から切り伏せた。
 さらにもう一体目もなんとか両断する。

 が、その間に三体目の攻撃を食らって、俺は吹き飛ばされる。

「ぐっ……!」

 体がしびれる。

 こいつ【毒】攻撃があるのか……?

 なおも向かってくるビッグワーム。

「『毒消し』を!」

 俺は空中に向かって叫んだ。
 収納エリアから、毒消し草を一本取り出し、口に入れる。

 すうっと体から痺れが消えた。

「余った魔石で毒消し草を買っておいてよかった……」

 立ち上がった俺は最後の一体を切り伏せた。

「はあ、はあ、はあ……」

 なんとか勝てたけど、やっぱりソロは大変だ。

 ぴろりーん。

 ――と、そのとき甲高い音が聞こえた。

 レベルアップのときに聞こえてくる音だ。

 今の戦闘で俺のレベルが一つ上がったらしい。

――――――――――――――――――――――――――
名 前:ゼノ・フレイザー
クラス:戦士
レベル:37→38
体 力:73/185→190/190
魔 力:0/0
攻撃力:45→46
防御力:48→50
呪 文:なし
スキル:【アイテム交換所】(EXスキル)
――――――――――――――――――――――――――

 レベルアップした俺は、こんな数値になった。

 レベル1くらいじゃ大幅にパワーアップというわけにはいかないけど、レベルアップには他にも恩恵がある。

「よし、体力が全回復した」

 さっきのビッグワームとの戦闘でけっこう体力を消耗していたからな。
 それが全回復したのは大きい。

「おかげでまだまだ戦えるな」

 魔石の方は十五体のビッグワームを全滅させたため、七×十五=百五個手に入った。
 R魔石に換算すると二個と少しだ。

 これで新たに罠を一つ仕入れるか、即死魔法が込められた矢を一本入手することができる。
 その辺は現れたモンスターに応じて使い分けするとして――、

「あと少し進んでみるか」

 といっても、俺はソロだ。
 いざとなったとき、誰かに助けてもらうことはできない。

 安全に安全を重ねるくらいの気持ちで慎重に進む必要がある。
 その一方で、ある程度の危険に踏みこんでいってこそ得られるものもある。

 バランスが難しい――。



 俺はもう一つ下の階層――十二層までやって来た。
 この辺りになると、モンスターもかなり強くなってくるはずだ。

「あれは――」

 前方に巨大なシルエットが見えた。

 体長は五メートルほどだろうか、巨人型のモンスターだ。
 頭の両サイドに巨大な牛の角。
 全身には毛皮が生えており、右手には巨大な斧が握られていた。

「リトルミノタウロスか……!」

 Cランクモンスター、リトルミノタウロス。
 リトル、という言葉が頭につくものの、Aランクモンスターであるミノタウロスにそれほど見劣りしないだけの強さを備えた厄介な敵だ。

「たぶん『中ボス』だよな……」

 ダンジョンには特定の階層にこういった強力なモンスターが番人として控えていることがある。
 最下層にいるものを『大ボス』とか『ラスボス』などと呼び、途中の階層に出てくるやつは『中ボス』と通称されていた。

 ここまで出てきたモンスターがほとんどEランクばかりだったことを考えると、いきなり出てきたCランクのこいつは、間違いなくボス格だろう。

「できれば戦いたくはないな……」

 俺は足音を立てないように後ずさる。

 ぎろり。
 いきなり奴がこっちを向いた。

 見つかった!
 音は立てなかったはずだが、気配を察知されたんだろうか。

 あるいは特殊スキルでも持っているのか。

「どっちにしても、正面から戦うにはまずい……!」

 俺は全力でダッシュした。
 ここはいったん上層階まで逃げよう。

 ぐぎぎぎぎぎいいいいっ。

 うなりながら、リトルミノタウロスが意外に素早いスピードで回りこんだ。
 出口は奴の後ろだ。
 ここから出るには、リトルミノタウロスを倒すしかない。

 うおおおおおおおおおおおおんっ。

 雄たけびとともに、リトルミノタウロスが大斧を振りかぶった。
 その刃が青い光を放つ。

 あれは――スキル攻撃の輝きだ!

「くっ……!」

 俺は全速力でその場から離れた。
 直後、一瞬前まで俺が立っていた場所に斧が叩きつけられる。

 ぐごぉぉぉぉんっ!

 青い輝きとともに爆光が弾けた。
 地面が大きく陥没し、無数の亀裂が走る。

 確かあれは――スキル【バーストストライク】。

 強烈な打撃と衝撃波をまき散らす攻撃スキルである。

「今のをまともに食らったら、確実に死ぬ――」

 俺はゾッとなった。

 やはり欲張って下の階層まで来すぎたんだろうか。
 俺みたいな底辺は現状に満足して、細々と安全な階層だけを行き来していればよかったんだろうか。

「――違う」

 危険に踏みこむってことは、未来の可能性を切り開くってことだ。

「俺は未来をつかむために来たんだ……っ!」

 リトルミノタウロスが向かってくる。

「『クロスボウと魔法の矢』の説明を見せてくれ」

 俺は空中に呼びかけた。

 ヴ……ン。

 前方の空間に説明文字が現れる。

――――――――――――――――――――――
・クロスボウ&魔法の矢1本(即死タイプ)……魔石R2個と交換

※Aランク以上のモンスターには10%、Bランクモンスターには30%、Cランクモンスターには70%、Dランク以下のモンスターには99%の確率で発生する即死魔法が込められた矢。クロスボウは初回交換時のみ付属。
――――――――――――――――――――――

 手持ちのN魔石はさっきビッグワームの群れを倒したときに手に入れた百五個と、他の道中で手に入れた七個――合計で百十二個ある。
 N魔石五十個がR一個分だから、交換に必要なR二個には足りている。

「よし、『クロスボウと魔法の矢』を魔石と交換してくれ」

 告げたとたん、俺の手に巨大なクロスボウと一本の矢がそれぞれ出現した。

「さあ、決戦だ――」

 俺はクロスボウに矢をセットして構えた。

『即死魔法』が込められた矢――。
 こいつが命中すれば、Cランクモンスターのリトルミノタウロスは70%の確率で即死する。

 もちろん、絶対に倒せるわけじゃない。
 30%の確率で即死魔法が発動しないわけだからな。

 けど、今はそこを考えても仕方がない。

 まずは、この矢を当てることだけを考えるんだ。

「落ち着け――」

 心臓の鼓動が高鳴る。

 集中するんだ。

「外せば、終わりだ。この一発で――ケリをつける」

 リトルミノタウロスと俺との距離が十メートルほどにまで縮まる。

 相手の体のサイズや突進スピードを考えると、目と鼻の先の距離といっていい。
 あと一秒以内に、奴は俺の至近距離まで接近するだろう。

 だから――発射のタイミングは今しかない。

「いっけぇぇぇぇぇぇっ!」

 俺はクロスボウで一矢を放った。
 赤い魔力の輝きを放ちながら飛んでいった矢は、敵の胸元に吸いこまれるようにして命中した。

「あ、当たった……!」

 俺はごくりと息を飲む。

 即死魔法の結果は、どっちだ。

 七割で即死、三割で未発動。
 もし三割の方が来たら、俺にもはや対抗手段はない――。



 が……あああぁぁぁ……ぁ……っ。



 次の瞬間、リトルミノタウロスは苦鳴とともに倒れ伏した。

「や、やった……!」

 無事に即死魔法が発動したようだった。

 きわどい戦いだったが、どうにか倒すことができた。
 俺はホッとして、その場にへたり込んだ。

 強敵を、俺一人で倒したんだ……。
 段々と興奮や高揚感がこみ上げてきた。

 俺はもう無能じゃない――。

 そんな思いとともに。

 と、そのときレベルアップを知らせる音が鳴った。

――――――――――――――――――――――――――
名 前:ゼノ・フレイザー
クラス:戦士
レベル:38→39
体 力:110/190→195/195
魔 力:0/0
攻撃力:46→47
防御力:50→51
呪 文:なし
スキル:【アイテム交換所】(EXスキル)
――――――――――――――――――――――――――

「お、モンスター一体を倒すだけでレベルが上がるのは初めてだな」

 さらに、

 ぴんぽんぱんぽーん。

 何かを知らせるような音が鳴る。

――――――――――――――――――――――――――
『アイテム交換所(ランク1)』

 交換可能アイテム一覧

双竜牙剣(ゼルドファング)……魔石R5個と交換
 ↑new!

・加速魔導装置(ランク1)……魔石R3個と交換
 ↑new!

・クロスボウ&魔法の矢1本(即死タイプ)……魔石R2個と交換
・魔法の罠・低級(爆破タイプ)……魔石R2個と交換
・魔法弾・低級……魔石R1個と交換
 ……etc

※アイテムは随時追加されます。
※交換アイテムが一定数を超えることで『アイテム交換所』のランクが上がります。
――――――――――――――――――――――――――

「新しいアイテムが追加されてる!」

 リトルミノタウロスを倒したときに、魔石Rを三つ手に入れていた。

『双竜牙剣』は無理だけど、『加速魔導装置』は手持ちの魔石で交換できるな……。

 さて、どうするか――。

 リトルミノタウロスを倒した後、俺はいったんダンジョンから帰還した。

 ちなみにリトルミノタウロスからは魔石Rを三個もゲットできた。
 リトルミノタウロスから得た魔石R三個は『魔導加速装置』と交換した。

 こいつを装備して稼働状態にすると、装着者のスピードを五倍に引き上げてくれる。
 稼働時間は一回につき十五分。
 その後は一時間の待機時間(クールタイム)が発生する。

 魔石Nに換算すると百五十個分で、ちょっと勇気がいる決断だったけどな。
 何せ普段の俺の稼ぎでいえば、十五日分くらいだ。
 だけど、『魔導加速装置』は後々の戦いで役に立ってくれそうだし、先行投資として入手するのはアリだろう。

 見た目としては小さな腕輪で、俺はさっそく左腕に装着している。

「よう、ゼノ」

 と、ギルドの入り口前で、冒険者たちから声をかけられた。

「お前が『月光都市のダンジョン』の第十二層まで到達した? 嘘だろ」
「確か、十二層には中ボスのリトルミノタウロスがいるんじゃ……」
「ああ、なんとか倒せたよ」

 驚く冒険者たちに、俺は苦笑交じりに言った。

 俺が持っているのは魔石とリトルミノタウロスの角。
 こいつを換金すれば、それなりの金になる。

 と、その冒険者たちがいきなり俺を取り囲んだ。

 ん、なんだ?

「おい、まじで素材を持ってんのか」
「へへへ、かなりの金になりそうだな」
「なあ、そいつを俺たちによこせよ」
「お前ごときがリトルミノタウロスを倒せるなんておかしいよな? もしかして他のパーティの手柄を横取りでもしたんじゃねーの?」

 いきなり絡まれてしまった。

 いや、最初から絡んでくるつもりだったのかもしれないな。

 俺は最底辺の冒険者で、しかもソロだ。
 誰からも見下されてるし、誰にも守ってもらえない立場だ。

「だからこそ――自分の身は自分で守るしかないよな」
「何?」
「ごちゃごちゃ言ってねーで、早くよこせよ!」

 冒険者の一人が殴りかかってきた。

 いきなり暴力に訴えるとは……血の気の多い奴だ。

 奴らはおそらくレベル50前後。
 その一撃は十分なスピードが乗っていて、以前の俺なら避けることも防ぐこともできず、ぶっ飛ばされていただろう。

 だけど、今は違う。

「見える――」

 短期間とはいえ、ダンジョンに潜ってハードな戦闘を何度も経験し、少しは度胸もついたかな。
 レベルも三つ上がったし、奴らの攻撃がよく見える。

 とはいえ、さすがに能力差を逆転するほどじゃないだろう。

「だから――こいつの出番だ」

 さっそく頼むぞ、『魔導加速装置』。

 俺は装置を稼働状態にした。

「っ……!」

 両足に、力がみなぎる。
 地面を、蹴る。

 ぐんっ!

 すさまじいスピードで、俺は奴らの間を駆け抜けた。

「なっ……!?」

 奴らは呆気に取られている。

「ちいっ!」

 一人が殴りかかってきたが、俺は余裕で回りこんで避けた。
 それから膝カックンを仕掛けて倒す。

「うおっ!?」

 さらに別の奴にも超スピードで回りこんで膝カックン。
 もう一人も、残りの一人も――。
 全員に膝カックンして、その場に倒れさせた。

「な、なんなんだ、お前――」
「は、速すぎる……化け物か」

 純粋にレベルの話でいえば、彼らがいずれもレベル50前後で俺はレベル39――俺の方が弱い。
 けど、スピードをここまで引き上げれば、さすがに圧倒的なアドバンテージを取ることができる、ってことだ。

 呆然とする彼らを見下ろし、俺はギルドに向かった。
 別に本格的に喧嘩したいわけじゃない。

 ギルドにこいつらの狼藉を報告するくらいでいいか。

「あ、でも、次に因縁付けてきたら『本気』で行くからな」

 いちおう釘をさしておく。

「ひ、ひいいいいいいい」
「も、申し訳ありませんでしたぁぁぁ!」

 土下座する彼らを尻目に、俺はギルドの建物に入っていった。
 俺は換金用の窓口にやって来た。

 リトルミノタウロスの素材を提出する。
 魔石の方はアイテム入手にも使うため、全部手元に置くことにした。

 たぶん素材の換金だけで当面の生活費は十分賄えるはずだ。
 特にリトルミノタウロスの素材は高く売れるからな。

 今後は、魔石は全部アイテム用に消費して、モンスターの素材を換金して生計を立てるっていうのが効率がよさそうだ。



 俺はその日もEランクダンジョンに挑んでいた。

 十二階層までは安全ルートを確保してある。
 モンスターがなるべく少ない道を通り、最小限の戦闘で次の階層へと進む。

 前回の十二階層――リトルミノタウロスと戦った場所を過ぎ、十三階層へと降りた。

『月光都市のダンジョン』は二十五階層まである、と噂で聞いたことがある。
 この調子で行くと、最下層まで到達できそうな感じだ。

 ちょっと前までは三階層から五階層くらいまでを延々と巡り、ちまちまと魔石稼ぎをする日々を送っていた俺が――。
 最下級とはいえ、ダンジョン踏破者になれるかもしれない。

「まずは罠設置だ」

 俺は魔石を消費し、爆撃魔法の罠を仕掛けた。
 そしてここから、今までと違ってもう一工程加えることにした。

「次にモンスター誘因用のエサ」

 罠の近くにエサをまく。

 獣タイプのモンスターにはだいたい有効な汎用タイプのエサ。
 一種の魔法薬だ。

 これは【アイテム交換所】で得たものではなく、町の魔法店で購入したものだった。

 エサをまき終えた俺は、すぐに物陰まで隠れた。

「上手くかかってくれよ……」

 そっと様子をうかがう。
 しばらくすると、餌の匂いにつられたモンスターが次々にやってきた。

 四足歩行タイプの『ソードウルフ』や『ファングタートル』、『キラーラビット』など、全部で三十体ほど。

「あとはタイミング……できるだけ多くの個体を巻き込むようにして……【起爆】!」

 ごうっ!

 青い火柱がすべてのモンスターを包みこみ、撃破した。

「よし、これで魔石を楽々ゲットだ」

 魔石はすべてNだったが、合計で二百以上手に入れた。

 そのうちの百個を使って、新たな爆撃罠を入手。
 残りの百ちょっとは『アイテム交換所』の収納エリアにしまっておいた。

「罠を使ったモンスター討伐は楽だし、便利なんだけど……ただ、このやり方だと俺のレベルが上がらないんだよな」

 俺は腕組みをしてうなった。

 そう、そこが悩みどころだった。
 罠でモンスターをいくら倒しても経験値としてはカウントされないのだ。

「自分の能力底上げには、やっぱり直接戦闘で倒すしかないんだよな……」

 ただできるだけリスクを抑えて、能力値を上げていきたい。

 なので、遠隔攻撃用のアイテムを魔石を使って入手し、なるべく危険を排した局面でモンスターを打ち倒していこうと思っている。

 とにかくソロなんだから、リスク回避を徹底しなきゃな……。



 そうやって素材と魔石を稼ぎ続ける。

 素材はギルドに売って生活資金に。
 魔石は新たなアイテムを入手するために消費する。

 その繰り返しで、俺は少しずつレベルを上げ、ダンジョンの下層へ、さらに下層へと少しずつ攻略済みエリアを広げていった。

 そうして二週間が経過。

 ダンジョンはすでに二十一階層まで探索済みだ。
 さらに、俺は最底辺のFランクから一つ上のEランクへと昇格していた――。


*****

ノベマ版はいったんここまでになりますm(_ _)m
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
本作を読みやすく改稿&書き下ろし番外編を収録した書籍版がグラストNOVELSより1/28に発売されますので、よろしくお願いします~!

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