私には7つ歳の離れた姉がいる。
その姉の影響で恋愛関係には早いうちから興味を持っていた。
姉はよく少女漫画を読んでいて、幼稚園に通う頃から私も一緒になって読んでいた。
青春恋愛映画やテレビのドラマなんかも一緒になって見ていた。
幼稚園児には少々早い描写と内容だと今では思うけど、あの頃から私は恋愛にどっぷりはまっていた。
中高生の恋愛事情と一緒に、そこで文字や言葉も覚えた。
中でも私が憧れていたのが、「幼馴染みの恋」だった。
漫画や映画やドラマに出てくるような幼馴染みの恋がしたかった。
だけど、残念ながら近所には該当者がいなかった。
ほとんどが姉と同世代で、私と同じ学年や近い年齢の子どもはいなかった。
そこにやってきたのが、朝陽だった。
朝陽は6歳の時、小学校に入学するタイミングで私の家の隣に引っ越してきた。
朝陽のお母さんが引っ越しのあいさつに来たとき、私もその場にいたんだけど、当時、今では信じられないくらい人見知りだった私は母親の陰に隠れて母親同士の会話を聞いていた。
朝陽のお母さんの声に耳を澄ましているうちに、私の耳はどんどん大きくなる。
なぜかどきどきどきと心臓が早く鳴りだす。
そして、
「朝陽と凪咲ちゃんは幼馴染みになるのね。よろしくね」
隠れていた私を気遣ってかけてくれたその言葉に、私の目が大きく見開かれた。
__あさひ……。
その名前に、心が奪われた。
その名前に、運命を感じた。
「ほら、朝陽、そんなとこに座ってないで、こっち来てあいさつしなさい。凪
咲ちゃんだって。朝陽と同じ小学校に通うんだよ」
年齢も同じ。
小学校も同じ。
もう少し早く来てくれてたら幼稚園だって一緒だったかもしれない。
だけど、何はともあれ私の理想の恋愛の形に近づいたわけだ。
そう思った。
そして母親に呼ばれて私の前に現れたのは…
__この人が、私の、幼馴染み。
運命の、相手。
そこにいたのは、私より少しだけ背の低い、もさもさ頭の男子だった。
そして朝陽は、イケメンではなかった。
クラスの人気者でもなかった。
朝陽と一緒にいても、男女からの冷やかしはあっても、女子からの嫉妬はなかった。
冷やかしに朝陽が反応することはなかった。
代わりに私が、「そんなんじゃないよ」「朝陽とそんな関係になるわけないじゃん」「ただの幼馴染みだよ」、ついでに、「朝陽をいじめるなあ」と、悪ガキ退治をする始末。
確かにこんなのも幼馴染みによくあるパターンなんだけど、私の理想とは正反対だった。
朝陽はといえば、ぼんやりとしていた。
いつの間にか友達の輪を離れて歩いていた。
出会った頃から変わらない髪型、いつも伏しがちな目、頼もしくない体つき。
ため息ばっかりついて、空ばかり仰いで、自分に自信がなくて、なんだかパッとしなくて、地味で存在感が薄い。
正直幼馴染みとしては物足りない。
それでも、私の幼馴染みの相手は、朝陽しかいなかった。
もうこれはしょうがない。
これがどう恋に発展していくのか、私にはわからない。
それなのに、私はかれこれ10年近く理想の幼馴染みの恋を追い続けている。
朝陽を相手に。
だって、私の幼馴染みは、朝陽しかいないんだから。
それに、朝陽とだって、もしかしたら……もしかするかもしれないでしょ?
こうして今日も朝陽と玄関先の階段に腰かけて話をするのだって、幼馴染みの特権だと思っている。
だけど相手が朝陽なら、誰も羨ましがらないだろう。
それでも私にとって、朝陽は特別な存在だ。
幼馴染みなんだから。
朝陽にとっても、私は特別な存在であってほしい。
いや、あるべきだ。
朝陽も私のことを、そう意識しているに違いない。
そうじゃなかったら、毎晩こんなふうに顔をつき合わせて話をしないでしょ?
だって幼馴染みだよ。
女子が憧れる恋愛パターンの代表じゃん。
私たちの関係は、友達でもなく、恋人でもない。
その中間の、特別な関係。
それが、幼馴染み。
二人の間に入れるものは、何もない。
それなのに、朝陽は、恋をした。
相手は、私じゃない。
朝陽の恋の相手は、私じゃなきゃダメなのに。
その姉の影響で恋愛関係には早いうちから興味を持っていた。
姉はよく少女漫画を読んでいて、幼稚園に通う頃から私も一緒になって読んでいた。
青春恋愛映画やテレビのドラマなんかも一緒になって見ていた。
幼稚園児には少々早い描写と内容だと今では思うけど、あの頃から私は恋愛にどっぷりはまっていた。
中高生の恋愛事情と一緒に、そこで文字や言葉も覚えた。
中でも私が憧れていたのが、「幼馴染みの恋」だった。
漫画や映画やドラマに出てくるような幼馴染みの恋がしたかった。
だけど、残念ながら近所には該当者がいなかった。
ほとんどが姉と同世代で、私と同じ学年や近い年齢の子どもはいなかった。
そこにやってきたのが、朝陽だった。
朝陽は6歳の時、小学校に入学するタイミングで私の家の隣に引っ越してきた。
朝陽のお母さんが引っ越しのあいさつに来たとき、私もその場にいたんだけど、当時、今では信じられないくらい人見知りだった私は母親の陰に隠れて母親同士の会話を聞いていた。
朝陽のお母さんの声に耳を澄ましているうちに、私の耳はどんどん大きくなる。
なぜかどきどきどきと心臓が早く鳴りだす。
そして、
「朝陽と凪咲ちゃんは幼馴染みになるのね。よろしくね」
隠れていた私を気遣ってかけてくれたその言葉に、私の目が大きく見開かれた。
__あさひ……。
その名前に、心が奪われた。
その名前に、運命を感じた。
「ほら、朝陽、そんなとこに座ってないで、こっち来てあいさつしなさい。凪
咲ちゃんだって。朝陽と同じ小学校に通うんだよ」
年齢も同じ。
小学校も同じ。
もう少し早く来てくれてたら幼稚園だって一緒だったかもしれない。
だけど、何はともあれ私の理想の恋愛の形に近づいたわけだ。
そう思った。
そして母親に呼ばれて私の前に現れたのは…
__この人が、私の、幼馴染み。
運命の、相手。
そこにいたのは、私より少しだけ背の低い、もさもさ頭の男子だった。
そして朝陽は、イケメンではなかった。
クラスの人気者でもなかった。
朝陽と一緒にいても、男女からの冷やかしはあっても、女子からの嫉妬はなかった。
冷やかしに朝陽が反応することはなかった。
代わりに私が、「そんなんじゃないよ」「朝陽とそんな関係になるわけないじゃん」「ただの幼馴染みだよ」、ついでに、「朝陽をいじめるなあ」と、悪ガキ退治をする始末。
確かにこんなのも幼馴染みによくあるパターンなんだけど、私の理想とは正反対だった。
朝陽はといえば、ぼんやりとしていた。
いつの間にか友達の輪を離れて歩いていた。
出会った頃から変わらない髪型、いつも伏しがちな目、頼もしくない体つき。
ため息ばっかりついて、空ばかり仰いで、自分に自信がなくて、なんだかパッとしなくて、地味で存在感が薄い。
正直幼馴染みとしては物足りない。
それでも、私の幼馴染みの相手は、朝陽しかいなかった。
もうこれはしょうがない。
これがどう恋に発展していくのか、私にはわからない。
それなのに、私はかれこれ10年近く理想の幼馴染みの恋を追い続けている。
朝陽を相手に。
だって、私の幼馴染みは、朝陽しかいないんだから。
それに、朝陽とだって、もしかしたら……もしかするかもしれないでしょ?
こうして今日も朝陽と玄関先の階段に腰かけて話をするのだって、幼馴染みの特権だと思っている。
だけど相手が朝陽なら、誰も羨ましがらないだろう。
それでも私にとって、朝陽は特別な存在だ。
幼馴染みなんだから。
朝陽にとっても、私は特別な存在であってほしい。
いや、あるべきだ。
朝陽も私のことを、そう意識しているに違いない。
そうじゃなかったら、毎晩こんなふうに顔をつき合わせて話をしないでしょ?
だって幼馴染みだよ。
女子が憧れる恋愛パターンの代表じゃん。
私たちの関係は、友達でもなく、恋人でもない。
その中間の、特別な関係。
それが、幼馴染み。
二人の間に入れるものは、何もない。
それなのに、朝陽は、恋をした。
相手は、私じゃない。
朝陽の恋の相手は、私じゃなきゃダメなのに。