「今更だが、幸せにするって?」
「言葉通りの意味だよ」
「と言われてもだな。具体的には?」
「佐藤くんが何不自由ない暮らしを与えることかな」
そこまでする義理は何もないと思うんだが。
俺はコイツと久々に再会しただけだぞ。それなのに。
「本当に俺の家に上がるつもりなのか?」
「当たり前でしょ。佐藤くんの部屋片付けしないといけないから」
「頼んだ覚えはないんだが」
「ボランティア活動です」
「一方的な思い遣りは周りを不幸にさせるだけだ」
「困ってる人をそのまま見過ごすのはできません」
頭上の赤ランプが『4』を指し示し、俺はエレベーターから降りた。
すると、当然のように、白川もニコニコ笑顔で付いて来た。
「多少はさ、警戒したらどうだ。一応、俺も男なんだぞ」
と言いながら、403号室へと辿り着き、鍵を取り出した。
ドアが開き「お前本当に入るのか?」と声を掛けると、白川は口をぽかーんと開けていた。
「佐藤くん……ここに住んでるの? う、嘘でしょ」
「何を言いたい?」
「そ、その私、隣人です」
***
高校時代に恋い焦がれた初恋相手に十年後再会。
その上、隣同士に住んでいたが、今の今まで気付かなかった。
こんな話ありえるのか?
「隣の家に住んでたんだ……これって運命かなー?」
「紛らわしい言い方をするな」
「でも、ロマンチックでしょ?」
「部屋の片付けをしている最中でもそう思うか?」
ブラック企業に勤めて朝から晩まで働いていた。その影響で、家に帰ってからは飯食って寝るだけの日々。そんな生活を続けたせいか、部屋の中はコンビニの弁当箱やカップ麺で散乱していた。掃除しようとは思うものの、毎回途中で挫折してしまう。
「さて、佐藤くん。時計を見てください」
電波時計を確認するともう既に日を跨いでいる。
というか、飲み食いした後のお片付けってどんなフルコンボだ。
「私達は社会人です。明日の朝には必ず出社しないといけません」
大人としての自覚が芽生えているらしい。もう立派な社会の歯車だ。
悪い言い方をすれば社畜だが。
「というわけで、提案があります」
白川は額の汗を拭いながら。
「一つは掃除をこのまま続けること」
この調子で行えば終わるのは日の出が見える時間帯だな。
「もう一つは休みの日に延期すること。どちらが良いですか?」
嫌なことは後回しにする派の俺。勿論答えは後者。
「分かりました。なら、泊まる準備をしてください」
「泊まる準備?」
「この部屋の掃除が終わるまで、私の部屋に住んでもらいます」
「あのーどんな思考回路でそんな結論が?」
「散らかった部屋に佐藤くんを置いていくのが無理なだけです」
段ボールの中に捨てられた子猫が入っており、そのまま可哀想だと思って、放って置けないみたいな感じなのかな。何はともあれ、却下だ。
「許しません。今日は、私の家に来てもらいます。拒否権はありません」
白川の部屋は空っぽだった。生活感が無いと言うべきか。普通に生活しているだけで、誰にでも何となく生活感が出るものだ。それにも関わらず、部屋の中にはベッドとテーブル、隅の方に段ボールが二箱あるだけで、それ以外は特筆すべき点が全く無い。と言えど、流石は女の子と言うべきか、調理器具の備えはあるらしく、キッチンには圧力鍋やホームベーカリーなどが置いてあった。
「先にお風呂入っていいよ」
その言葉に甘えてお風呂を拝借した俺が部屋に戻ってくると、白川はパソコンのキーボードをパチパチと鳴らしていた。仕事の資料作りでもしているのか。
「まだ仕事なのか?」
「あはは……大丈夫大丈夫。これぐらいは余裕」
「こんなことを言うと、差別発言になるかもだけどさ」
そう前置きして、俺は自分の本心を伝えることにした。
「白川ぐらいの美人なら男達も放って置かないだろ。それなら、さっさと良い男を捕まえて家庭を作った方がいいんじゃないか?」
白川結奈は誰もが認める美少女だった。そして、美女だ。実際に彼女が色んな男達に告白されているのを見たことがある。別段、誰かの人生に対してとやかく言うことではないと自覚しているが、俺は彼女の生き方がイマイチ理解できない。
「なら、私からの質問が一つ。良い男ってどんな人?」
「高収入でイケメンで誰にでも優しくて……ええと、一途に一人だけを想い続ける人のことじゃないのか……わ、分かんねぇーけどさ」
「ふぅーん。それじゃあ、佐藤くんにとっての良い女って誰?」
その言葉を聞き、真っ先に思い浮かんだのは目の前の女だった。
「顔赤くしてるけど、誰なのかなー? 気になるなぁー」
「べ、別に誰でもいいだろうが。俺はもう寝るからな」
「照れてるー。可愛いね、佐藤くんって」
「う、うるさい!! って……あの俺はどこに寝れば?」
「私のベッド使っていいから。グッスリ寝てよ。おやすみ」
「あぁーおやすみ。白川」
「言葉通りの意味だよ」
「と言われてもだな。具体的には?」
「佐藤くんが何不自由ない暮らしを与えることかな」
そこまでする義理は何もないと思うんだが。
俺はコイツと久々に再会しただけだぞ。それなのに。
「本当に俺の家に上がるつもりなのか?」
「当たり前でしょ。佐藤くんの部屋片付けしないといけないから」
「頼んだ覚えはないんだが」
「ボランティア活動です」
「一方的な思い遣りは周りを不幸にさせるだけだ」
「困ってる人をそのまま見過ごすのはできません」
頭上の赤ランプが『4』を指し示し、俺はエレベーターから降りた。
すると、当然のように、白川もニコニコ笑顔で付いて来た。
「多少はさ、警戒したらどうだ。一応、俺も男なんだぞ」
と言いながら、403号室へと辿り着き、鍵を取り出した。
ドアが開き「お前本当に入るのか?」と声を掛けると、白川は口をぽかーんと開けていた。
「佐藤くん……ここに住んでるの? う、嘘でしょ」
「何を言いたい?」
「そ、その私、隣人です」
***
高校時代に恋い焦がれた初恋相手に十年後再会。
その上、隣同士に住んでいたが、今の今まで気付かなかった。
こんな話ありえるのか?
「隣の家に住んでたんだ……これって運命かなー?」
「紛らわしい言い方をするな」
「でも、ロマンチックでしょ?」
「部屋の片付けをしている最中でもそう思うか?」
ブラック企業に勤めて朝から晩まで働いていた。その影響で、家に帰ってからは飯食って寝るだけの日々。そんな生活を続けたせいか、部屋の中はコンビニの弁当箱やカップ麺で散乱していた。掃除しようとは思うものの、毎回途中で挫折してしまう。
「さて、佐藤くん。時計を見てください」
電波時計を確認するともう既に日を跨いでいる。
というか、飲み食いした後のお片付けってどんなフルコンボだ。
「私達は社会人です。明日の朝には必ず出社しないといけません」
大人としての自覚が芽生えているらしい。もう立派な社会の歯車だ。
悪い言い方をすれば社畜だが。
「というわけで、提案があります」
白川は額の汗を拭いながら。
「一つは掃除をこのまま続けること」
この調子で行えば終わるのは日の出が見える時間帯だな。
「もう一つは休みの日に延期すること。どちらが良いですか?」
嫌なことは後回しにする派の俺。勿論答えは後者。
「分かりました。なら、泊まる準備をしてください」
「泊まる準備?」
「この部屋の掃除が終わるまで、私の部屋に住んでもらいます」
「あのーどんな思考回路でそんな結論が?」
「散らかった部屋に佐藤くんを置いていくのが無理なだけです」
段ボールの中に捨てられた子猫が入っており、そのまま可哀想だと思って、放って置けないみたいな感じなのかな。何はともあれ、却下だ。
「許しません。今日は、私の家に来てもらいます。拒否権はありません」
白川の部屋は空っぽだった。生活感が無いと言うべきか。普通に生活しているだけで、誰にでも何となく生活感が出るものだ。それにも関わらず、部屋の中にはベッドとテーブル、隅の方に段ボールが二箱あるだけで、それ以外は特筆すべき点が全く無い。と言えど、流石は女の子と言うべきか、調理器具の備えはあるらしく、キッチンには圧力鍋やホームベーカリーなどが置いてあった。
「先にお風呂入っていいよ」
その言葉に甘えてお風呂を拝借した俺が部屋に戻ってくると、白川はパソコンのキーボードをパチパチと鳴らしていた。仕事の資料作りでもしているのか。
「まだ仕事なのか?」
「あはは……大丈夫大丈夫。これぐらいは余裕」
「こんなことを言うと、差別発言になるかもだけどさ」
そう前置きして、俺は自分の本心を伝えることにした。
「白川ぐらいの美人なら男達も放って置かないだろ。それなら、さっさと良い男を捕まえて家庭を作った方がいいんじゃないか?」
白川結奈は誰もが認める美少女だった。そして、美女だ。実際に彼女が色んな男達に告白されているのを見たことがある。別段、誰かの人生に対してとやかく言うことではないと自覚しているが、俺は彼女の生き方がイマイチ理解できない。
「なら、私からの質問が一つ。良い男ってどんな人?」
「高収入でイケメンで誰にでも優しくて……ええと、一途に一人だけを想い続ける人のことじゃないのか……わ、分かんねぇーけどさ」
「ふぅーん。それじゃあ、佐藤くんにとっての良い女って誰?」
その言葉を聞き、真っ先に思い浮かんだのは目の前の女だった。
「顔赤くしてるけど、誰なのかなー? 気になるなぁー」
「べ、別に誰でもいいだろうが。俺はもう寝るからな」
「照れてるー。可愛いね、佐藤くんって」
「う、うるさい!! って……あの俺はどこに寝れば?」
「私のベッド使っていいから。グッスリ寝てよ。おやすみ」
「あぁーおやすみ。白川」