その日、私の夫は、私の目の前で浮気をした。

深夜、夫を家に連れてきた女は、あろうことか私の部下だった女。
相当酔っ払ったらしい夫をその女が連れ帰ってきたのだ。

酔いつぶれた夫を玄関になんとか運び込み、玄関のドアが閉まるや否や、彼女は、

「ずっと好きでした」

と夫に縋って言った。
そんな女に、彼はただうつむいて、答えに詰まる。


そこは、俺には妻しかいないんだ! アイラブ妻! アイオンリーラブワイフ! でしょうが! ……と思ってみるが、彼からその言葉は出ず、ただ沈黙だけが三人を包みこんだ。


お願いだから、妻だけだと……
自分には一生妻だけだと言ってほしい。


私の願いが届いたのか、彼は小さく「ごめん」と彼女に謝った。
彼女は唇を噛み、家から出て行った。その彼女の後姿を夫の目線が見送る。

それを見て、私の胸は大きく鳴った。
いつか、彼女に彼が奪われる日が来ると……

そう思ったんだ。


夫はゆっくり立ち上がると、リビングに行き、小さな額縁に目を向けた。
額縁の中で微笑む私は、10年前の姿のまま。

「キミがもうこの世にいなくても、僕には一生キミだけだ」

私の頬に、一筋の涙が伝った。


ごめんね。
それでも、ずっと愛してる。