一年も経つと、ほとんど半同棲の状態になっていた。いちいち来るのが面倒だと言って、私物をどんどん増やしていった結果がこう。

 少し荒れかけた唇に口紅を塗っていると、隣で髪を乾かす君が覗き込んで。

「あ、いい色。なんか、秋っぽい」

 そうボールドの口紅を私の手ごと掴んだ。そのまま、自分の唇になぞりながら色味を確かめる。

「やっぱ、つける人間が違うと印象変わるなぁ」

 ぽつりと言って、出したままの口紅を私へ返した。

「レナの方が似合ってる」

 ふっと笑って、またドライヤーのスイッチを入れる。
 全然そんなことない。私には、君の方がぐっと色っぽく映って、大人に見えた。

 それと同時に、君はやっぱり女なんだと実感させられた。
 タンクトップから露わになっている細い腕とか、少しの膨らみとか、くびれも全部。気にしたら最後、そればかりが脳内を埋め尽くして、現実を思い知らしめる。

「そういえばさ、昨日事務の子に告白された」
「えっ、なんて答えたの?」
「普通に、ごめんなさいした」
「……そっか」

 女同士だから、当たり前でしょ。言われてないけれど、そんな空気が出ていた。
 だったら、私たちはどんな関係なのか。それは怖くて、口に出来なかった。

 風が止まったとたん、頬に唇が落ちてきて、ぱくっと食われる。首筋に吸い付くようにつけられた痕跡。そこから沸き上がってくる熱と、少しの痛み。

 鏡に映る私たちは、異常だった。
 決して、唇を重ねることはしないで、お互いを求め合う。抱きしめた君の背中は、身長のわりに華奢で。なにかを背負うには、とても小さ過ぎた。