半年を過ぎた頃。季節は秋になっていて、街の景色が衣替えをして。
 そんな美しさを目に焼き付けようともしないで、私たちは部屋へこもってベッドの中で文字を打つ。
 ノートパソコンを覗き込もうとすると、君に決まって隠された。優しい腕に阻まれて、暗い視界に溺れていく。

「まだ完結するまで見せない」
「ケチ」
「なんとでも言え」
「いいもん。今度勝手に見るから」

 頬を膨らませた仕草をする私の頬に、不意打ちの唇が落ちて来た。

「見たらコロス」

 それが、君とした初めてのキス。
 その日を境に、君は私へ触れるようになった。少しずつ様子を伺うように、額、鼻、耳へ移り変わって。だけど、唇にはしない。してくれない。
 その境界線を超えてしまったら後戻り出来ないと、ふたりとも分かっていたから。


「絶対怪しいって」
「だよね〜。あの距離感、うちらにはしないもんね。佐倉サン」
「霧島さんって、なんかウザイんだよね。そこまで可愛いわけじゃないくせにさ」
「うちらだってしゃべりたいのに。独り占めすんなってカンジ」
「ねー」

 とうとつに耳に入ってくる声に、トイレの個室から出られなくなる。
 ノブを掴んだ手を、おもむろに下ろして。すとんと便器に腰を下ろす。

 職場の化粧室が女子の暴言の場だということは、入社してすぐに知ったこと。それほど驚きもないし、むしろスッキリしている。
 やっぱり佐倉千秋は、他の女子社員から見ても魅力的なのだと。
 そんな君と一緒にいられることを、誇らしげに思うと頬が緩んだ。