君との違いは、アラームの時間、煙草。それともうひとつ。
 朝起きてすぐ、君はチョコレートを食べる。頭が活性化すると言って、いつも冷蔵庫へ入れていた。

「おはよう」

 早起きの君は、ベランダで煙草を吸ってから部屋へ来て。ベッドから降りる私を見て、すっきりした顔をする。
 無駄に艶っぽい指先で、チョコレートを口へ運んで。ぺろりと舌を出して染まった指を舐めて。

「好きだよね、それ」
「体が糖分を欲してるんだよなぁ」

「疲れてるの?」と聞くと、「そうかもね」と返事が来る。
「適当だね〜」なんて言って笑うと、君も楽しそうにして。たまに子どもみたいになる顔が好きだった。

「どうせなら、ミルクにしたらいいのに」
「なにが?」
「チョコレート。それ、ビターのさらにビターでしょ? ちょっと苦そう」
「レナも食べてみる?」
「いらなーい」

 苦味のある食べ物は得意じゃない。パセリとか、セロリとか栄養に直接的に影響のないものばかり。

 匂いが口に残るのも無理だけど、生理的に受け付けないと知ったのは、高校生の頃に食べたカカオ八十六パーセントのチョコレート。
 どうもあのプラスティックを噛んでいるみたいになるのが苦手だ。
 それをなんの抵抗もなく口へ運ぶ君を、少しだけ理解しがたいと思っていた。