なにもなくなった部屋を見渡して、虚しさが込み上げてくる。
 それから、窮屈な寂しさと、焦がれるような苦しさ。
 答えを聞くつもりなんて、はなからなかったんじゃない。

 そっと唇に触れてみると、まだ生ぬるい余韻が残っている。初めて知った、君の柔らかさ。
 好きだなんて、今まで言ったこともなかったくせに。

 張り裂けそうな胸を押さえながら、どこか納得している自分がいた。
 下着の好みが変わったのも、急に気持ちを聞いて来たのも、全部あの日から。結婚という現実を見た時から、君は少しずつ距離を作っていた。
 そのサインに、もう少し早く気付くことができていたら、違う選択肢があったのかな。

 お互い他の人と結婚して、子どもを産んで、親の喜ぶ顔を見る。そんな想像もしてみるけど、どれもイマイチぴんとこない。

 空っぽの部屋で、ころんと横たわる。生まれたての赤子のように、小さく丸くなって。

「……会いたい……千秋、会いたいよ」

 その日は、朝から夜通し泣いた。体中の水分がなくなるまで。

 君のいない未来なんて、生きていても意味がない。