白い雪が降り続く夜更(よふけ)。私に覆い被さる君の瞳が(うれ)いでいた。
 何を考えているのか、なんとなく分かって。濡れた跡が残る目尻を、優しく指の腹でなぞる。

「……レナ。嘘はいらないからさ。ほんとのことだけ教えて」

 いつもより真剣な瞳を見つめ返すことが出来なくて、私は視線を斜め下へ落とす。

「……うん」
「わたしのこと、好き?」
「なに、いきなり」
「いいから答えて」

 低いトーンで、荒っぽく投げつけられる言葉。

「……当たり前じゃん」
「それって、恋愛感情で? それとも、友達の延長線?」

 焦り、苛立ち、不安、期待。
 君からは、いろんな音が溢れている。それを醜いとは思わなかったし、全て私へ向けられたものだと考えると、精神が昂った。

「レナはさ、わたしと違って可愛いんだから。そろそろ、ちゃんと恋愛した方がいいよ」

 ずるりと落ちてきた頭が、鎖骨あたりに埋まって。こんなときでも、君の匂いに心臓が速まる。

「……いまさら」

 どう反応したら良かったのだろう。
 泣きじゃくって縋り付いたら、訂正してくれたのだろうか。

 ただ、君だっだ。好きになった人が、たまたま同性だった。それだけなのに。
 どうして、突き放すようなことを言うの。

 ほろりと涙が流れるけど、すぐ手の甲で拭って跡を消す。
 たとえどんな答えを出したとしても、誰も幸せになんてなれない。

「ごめん、ちょっと頭冷やしてくるわ。明日の朝、また話そう」

 ベランダで煙草に火をつけて、君が戻ってきたのはしばらくしてからだった。ひんやりとした空気は、一瞬にして上昇する。
 背中ごしに感じる君は、知り尽くした温かさで。その安心に抱きしめられて、私は重い瞼を閉じた。

 ずっと、このままでいられたらいいのに。
 強く絡まる腕に打ちひしがれながら、暗闇の中を彷徨い続けていた。