教室の扉を開けると、明らかに異様な雰囲気を放った机が僕の横に置かれていた。昨日まではなかったはずの机。嫌な予感とは、このようなことを言うのか。
 窓側にある僕の席はいつも不自然に空いていた。誰か一人は座れて授業が受けれるように、いつもぽつんとそこだけが空いていた。最初こそは、不思議に思っていたがここで過ごしていくうちに、その気持ちも波にさらわれるように消えていった。

 僕の頭の中には、一つの景色が思い浮かんでいた。そう、彼女が僕と同じクラスだという景色だ。騒がしくなりそうだな、と思い少しだけ違うクラスだと有難いと思っていた自分がいたが、神様はそんな考えを許してくれない。

 少しだけ肩を落としながら、自分の机に座る。机の横にあるカバン掛けにカバンを掛ける。昨日まではいなかった、おかしな存在の机を見詰めていると、教室の扉が勢いよく開く。

「あっ、居た!まさか君と同じクラスなんてね〜!嬉しいねえ!」

 ズカズカと一直線に彼女は僕の方へやってくる。
 やはり、騒がしくなった。主に教室にいる男子達が。突然現れた、美人の存在にクラスの男子達はざわめきたつ。それと同時にこちらへの視線も集まる。

「君は本当に人の目を気にしないんだね」

「私の目は前にしか付いてないからね。周りの視線を気にすることが出来るほど、高性能じゃないんだ」

 もっともらしい屁理屈をべらべらと並べる彼女は、肩にかけていたカバンを机の上に置く。椅子に座り、視線と体はこちらに向ける。

「ははは、それは面白い理屈だね」

「先生から聞いたんだ、横の席が君だって。それ聞いた瞬間に、急いで階段登って来ちゃった。こんな偶然あるんだね?」

 彼女の理屈をバカにして言ったつもりの言葉も、彼女には意味が無いようで話を続ける。偶然、と言われたら首を縦に振るしかない。けれど、本当に何故こんな偶然が重なるのだ。偶然が重なることが自体が偶然だろう。

「急いで上がってきたのはいいけど、なんで左足の上靴脱げてるの?君はシンデレラ?」

「あれ……本当だ。脱げてる。どうしてだろう?」

「踵を踏んでるからでしょ。早く拾いに行きなよ、ちゃんと靴履いてね」

 彼女の上靴はここに来た時から、片方だけ何故かなかった。彼女は上靴は踵を踏んで履いていた。おおよそ、急いで上がってきた時に脱げてしまったのだろう。
 しかも、彼女は脱げていたことに気付いていなかったらしい。脱げてしまって靴下になった左足を見ながら、あははと口を大きく開けて笑う。

「じゃあ、シンデレラの私は脱げたガラスの靴を拾ってくるね〜!」

 彼女は靴下を汚したくないのか、ケンケンパで脱げてしまった上靴を拾いに行く。

「……何言ってんだ」

 僕は去り際に言った彼女の冗談は理解しようとしなかった。したら、アホになる気がして。
 僕のぽつんと空いていた横に騒がしく隣人が越してきた。