「いつも一人で登校してるの?」

 君は、失礼だと思ってもいない表情で質問を投げかけてくる。

「毎日一人だよ。毎回アイツが登校のお供さ。たまに消えるけど」

 僕は、青空に上がっている太陽を指差す。いつも、登校する時はアイツが着いてきてくれる。登校のお供はアイツだけ。
 でも、たまに雲で隠れてしまうから、その時は本当に一人登校。

「.........?」

「今言ったことは忘れて。何も無かった、いいね?」

「うーん、無理! 忘れることなんて出来ない!よって、諦めてください!」

 頭の上に、はてなマークを乗せて首を傾げる彼女。僕は、変なことを言ってしまった。と思い、忘れてくれと言うが、彼女は胸の前でバツ印を作って要求を拒否る。
 こんなことなら、冗談なんて言わなかったら良かった、と思うが時すでに遅し。彼女の頭の中には、僕の冗談が刷り込まれてしまっている。

「もっと、ましな断り方なかった?」

「多岐にわたる道の中から、選出された断り方です」

「言葉選びは美しいけど、断り方は美しくないね」

「君もなかなかに辛辣だね」

「相手が殴ってきたら、殴らないと」

「正当防衛ってやつ?なら、仕方ないかぁ」

 学校に向かうまでの間、こうやって誰かと顔を合わせながら登校したのはいつぶりだろうか。思い出せないほど前、ということはかなりの年月、僕は一人で登校をしていたのだな。
 肩を並べて、彼女と歩いていると周りの目線がこちらに集まっていることに気付く。視線は、学校に近づくにつれ、どんどんとこちらに向く。
 モデルのような彼女と、教室で小説を一人で読んでいるような僕が一緒に登校をしているのだ。視線が集まることなんて当然の事だった。あの時は二つ返事をしてしまったが、何故こうなることを失念していたんだ。
 しかし、彼女は僕とは違って視線のことなど、素知らぬ顔で堂々と肩で風を切りながら歩いていた。

「気にならないの?この視線の数」

「ん〜?気にならない。だって、どうでもいいもん」

 あまりにも気にしてなさそうなので、正門の前で彼女に尋ねるとかどうでもいい、と一蹴される。

「君は気になるの?」

「いつも一人だから、こんな注目されるのは慣れてないから気になるかな」

「ふーん」

 彼女は自分から聞いた癖に、心底興味の無さそうな返事をする。
 僕は気になってしまう。この視線の数を。不特定多数に見られるのは、苦手になってしまっていた。視線の中には、嫌味、憎悪、哀れみ、などはない。あるのは、彼女への興味だけ。横にいる、僕は精々が玄関先の置物ぐらいの存在だろう。

「興味無さそうだね。自分から聞いたくせに」

「あはは、ごめん、ごめん」

「それは、悪いと思ってない人の謝り方だよ」

「バレた? あれ、私のクラスってなんだっけ?知ってる?」

「知らないよ。職員室に行って聞いてきたら?職員室は、靴箱を右に曲がって真っ直ぐ行ったらあるよ」

 靴箱で下靴から上靴に履き替えていると、彼女は自分のクラスがどこかと聞いてくる。当然、僕が彼女のクラスを知ってるはずもない。

「うん、聞いてくるね。同じクラスだといいね〜!」

 彼女に職員室までの行き方を教えると、軽快な足取りで走っていく。
 同じクラスだと、騒がしくなりそうだな。と思いながら僕は自分のクラスに足を進める。