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久しぶりに悠里は母と買い物に出掛けた。もうすぐ母の誕生日、悠里はアルバイトで稼いだお金で母の好きなものを買ってあげる約束をしていた。

「悠里が稼いだお金だもの。自分のために使いなさい」

「いいからいいから。私だってお母さんにプレゼントしたいの」

今まで母が贅沢をしている姿は見たことがない。決して貧乏な暮らしをしているわけではなく不自由だと思ったことはなかった悠里だが、それは母が節約上手で尚且つ自分のものは買わないで悠里のために惜しみ無くお金を使ってくれていたことにようやく気づき始めていた。

そんな母に、自分で稼いだお金で何かプレゼントをしたいとずっと思っていた。やっと今日、それが実現するのだ。

「じゃあお言葉に甘えて、手袋を買ってもらおうかな」

「そんなのでいいの?」

「最近寒くなったでしょ。自転車で通勤するの手が冷えるのよね」

二人はまるで友達同士かのように和気あいあいとショッピングを楽しみ、肌触りの良いベージュの手袋を購入した。

今日はお互いに仕事が休みなためそのままカフェへ入る。

母は先ほど購入した手袋をさっそく着けて見せ、嬉しそうに笑った。そんな姿を見て悠里も嬉しくなる。

「悠里は立派になったね。本当にいい子に育ってくれてお母さん嬉しい」

「そう?高校生にもなればこんなもんでしょ?」

「進路は考えてるの?」

「うーん、就職しようかな?」

「大学行ってもいいのよ。悠里はすぐ遠慮しちゃうから」

「遠慮なんかじゃないって。私、勉強あんまり好きじゃないんだよね。それにファミレスでバイトしたら働くのも楽しいなって思えるようになってきてさ」

クリームソーダを啜りながらそれっぽいことを言ってみる。悠里にとってそれは真実が半分、もう半分はやはり遠慮である。

「本当に立派になっちゃって、自慢の娘だわ。……あのね?」

「うん?」

母は一呼吸置くと、控えめな声色で言う。

「……そんな自慢の娘を紹介したい人がいるんだけど、悠里は会ってくれる?」

遠慮がちに言う母はいつもと違ってモジモジしており、そんな態度に悠里ははっとなった。

「え?それってもしかして……」

「実はお付き合いしている人がいるの。でも悠里が嫌なら会わせないから……」

「ううん。会いたい。お母さん結婚するの?」

「そんな、まだ結婚だなんてわからないわ」

母のいじらしい姿は普段とは違ってとても女性らしく、悠里は胸がウズウズとしてきた。まさか母の恋話を聞く日がこようとは思わず、感慨深くなる。

安永に片想い中の悠里は、いつか自分も母にそうやって報告できる日がくるのかなと思いを馳せた。