地下六階の探索は明日から始まる。長期間留守をするので今日はジャカルタさんと二人で秘密の菜園へ出かけた。バナナやマンゴーの種も忘れずに持ってきている。ダメもとで植えてみるとしよう。

「ひょっとしたら順調に育つかもしれませんよ。先日、私のスキルがレベルアップしました。これもセラさんと地下菜園のおかげですね」

 積極的に農業に携わっているおかげでジャカルタさんのスキルも成長したようだ。

「バナナやマンゴーが収穫できるのは嬉しいなあ」

「あれは美味しいですものね。セラさんにいただいたとき、絶対にこれを育てようと思いましたからね」

 僕らは談笑しながら迷宮の入り口までやってきた。

「聞け、クズども。最近になってガキが血を抜かれる事件が頻発している。ガキは早く帰って寝ろ。フラフラ遊んでいるから狙われるんだ。遊んでいる暇があったら迷宮へ潜れ。魔結晶を取ってくるのだ!」

 今日も監獄長のダミ声が響いている。よく言うよ。自分の娘のララベルには「迷宮なんて行くんじゃない!」と怒鳴りつけているのに。もっともララベルは父親の言うことなんてこれっぽっちも聞く気がない。子どもっぽく見えるけど成人しているわけだし、僕も余計な口を挟まないようにしている。

「怖い話ですねえ。襲われたのは十代の少年ばかりらしいです。セラさんも気を付けてくださいよ。って、銀の鷹を襲う者なんていませんか」

 ジャカルタさんはクックと笑った。近頃、エルドラハの人々は僕のことを銀の鷹なんて呼んでいるらしい。僕が銀髪だからだろう。

「でも、子どもの血なんて誰が抜いているんでしょう?」

「呪術師が儀式のためにやっているなんて噂がありますね。被害者はみんな後ろから抱きつかれて血を抜かれているみたいで、目撃者はいないそうですよ」

 襲われた子どもは少量の血を抜かれるだけで、たいしたケガもしていないらしい。でも、どうやって血を抜いているのだろう? 注射器なんてない世界なんだけどな……。

「もしかしてヴァンパイアですか?」

「だとしたら大事ですよ。血を吸われた人間はグールになってしまいます。でも、そんな話は聞きませんね」