「本当に、私はセラと結婚するはずだったの」

 メリッサはぽつりぽつりと語ってくれた。グランベル王国の習慣のこと。ノキア家がどんな家柄だったかなどなど。

「そんな事情があったなんてちっとも知らなかったよ。だからキャブルさんが僕のことを若君だなんて呼んだんだね」

「キャブルは粗忽なのだ」

 またしばらく沈黙が続いた。もしかしてメリッサはもう寝ちゃった? 顔を覗こうとしたらメリッサの口がまた開いた。

「こんな話をして迷惑だったか?」

「迷惑ではないよ。だけど、結婚なんて考えられないっていうのが正直なところかな」

「そうか……」

「物心ついてからずっとエルドラハで育ったから、グランベル王国の民って意識もないんだ。それにまだ十三歳だもん」

 精神的には十八歳なんだけどね。

「セラは年齢の割に大人びているから、たまに年齢を忘れる」

「よく言われるよ……。えーと、どうする?」

「どうするとは?」

「僕はメリッサと結婚するなんて考えられないんだ。それでもその、一緒に探索にいってくれるの?」

 メリッサは少しだけ動揺してから頷いた。

「私はセラといると楽しい。安心する」

「それは僕も同じだよ。メリッサが一緒ならどこでも行ける気がする」

 そういうとメリッサは満足そうに頷いた。今はこれでいいってことかな?

「明日は材木を探そう。私も新しい机が欲しい」

「わかった。荷物運びは任せておいてね!」

 僕らは床にマントを広げて並んで眠った。迷宮地下五階にいるというのに不安はどこにもなかった。



       ◇



 迷宮は下に行くほど涼しくなるのだけど、地下六階に到達した僕らは蒸し暑さを感じた。こんなのは日本の梅雨の記憶以来だ。植物が繁殖しているのと関係があるのだろう。

「黒い刃は地下六階にはくるの?」

「いや、ここは魔結晶が少ない」

 実入りとしては地下五階の方がいいそうだ。奥に進むにつれて石の床が土に覆われ、壁にはツタ類が絡みつくようになってくる。扉を抜けて広い場所に出ると、まばらながら木まで生えてきた。

「ええっ!? これはマンゴー?」

 見覚えのある果物がなっている。スキャンで確かめたけど、間違いなく僕がよく知るアップルマンゴーだ。

「食べられるの?」

「すっごく美味しいんだよ!」