「そんなのがあったなあ! 聖杯を見つけたチームは恩赦で帝国市民になれるって話だったかな」

「話だったってことは、もうその約束はないの?」

 シドは首を横に振る。

「いや、話自体はまだある。ただ、聖杯は地下七階の危険区域にあってな、大勢の囚人が聖杯を手に入れようとして死んじまったんだ。そのせいで魔結晶の採取率が著しく減少しちまった。帝国にしてみれば魔結晶が入ってこないのも大問題なわけだ。それで、大々的に宣伝するのを止めちまったんだな」

 ララベルは内緒話をするように声をひそめた。

「帝国はまだ聖杯を諦めてなんかいないよ。親父のところには今でも、精鋭を派遣しろって命令書がたまに届くんだ。だけど、今のエルドラハには優秀なチームは少ない。それこそメリッサのところの『黒い刃』、あとは『銀狼』とか『カッサンドラ』、伝説のソロプレーヤー『ミレア・クルーガー』くらい。そういったやつらが密かに聖杯を探しているらしいよ」

 メリッサも聖杯を狙っているのか……。

「セラが本気で飛空艇に乗りたいのなら聖杯を探すしかないんじゃないの? もしデザートホークスが聖杯を見つけたのなら、アタシも後ろめたい思いをしないで飛空艇に乗れるってもんだ」

 ララベルが僕を焚きつけてくる。それを受けてリタも自分の意見を披露した。

「帝国には恨みしかないけど、エルドラハの景色には飽き飽きしていたところなんだよね。空の旅っていうのもロマンチックで憧れるわ」

 やる気を見せる女の子たちに対して、シドは深刻そうな顔をしていた。

「これまで何組ものトップチームが地下七階で命を落としているんだぞ。なまなかな場所じゃない」

 シドの心配も当然だけど、僕には確信めいた自信があった。

「そうかもしれないけど、なんかいけそうな気がするんだよね。自慢とかじゃなくて、冷静に考えてそんな気がするんだ」

「このガキが……。だが、悔しいけど俺も同感だ」

「へっ?」

「魔導錬成師セラ・ノキアならやれそうな気がするんだよ」

 シドがにやりと笑って見せる。だったらもうみんなが向いている方向は一緒ってことだ。

「よし、デザートホークスは聖杯探しに参加するぞ!」

 迷宮の通路に小さな歓声が上がった。



       ◇