エルドラハにも街を守る壁はある。といってもこれは砂嵐から建物を守るためのものだ。だから門に扉はなく出入りも自由である。もっとも大きい砂嵐が来ればこの壁もそんなに役には立たない。人々は地下迷宮へ避難する。僕は街を出て大きな岩山のところまでやってきた。



 岩山は風で削られ、ざらざらとした石柱がそそり立っているところがあった。星空の下でそれらの岩はまるで魔物の群のようだ。僕は鮫噛剣を抜いて身構える。まずは剣。鋼鉄をも切り裂く鮫の歯が当たると、岩はガリガリと削れて真っ二つになってしまう。これなら実戦でも使えそうだ。

 そして鞭。剣としての刀身は五七センチだけど、ワイヤーを伸ばせば五メートル以上の長さにもなる。レッドブルによく似た岩に、僕は鞭を打ち付けた。風切り音を立てながら鞭は首に見立てた部分へと絡みつく。その状態で魔力調節をしてワイヤーを縮めると、サメの歯が首に絡みつき頭部がぽとりと砂地へと落ちた。

「悪くない……、悪くないけど扱いにくい」

 使いこなすには相当な修練が必要そうだ。この夜はそれ以上の実験はせず、僕はおとなしく部屋に帰って毛布をかぶった。



       ◇



 翌朝は大きなノックの音に起こされた。昨日は鮫噛剣を作っていて遅くなった。今朝は少し寝過ごしたようだ。シドが心配して見に来たのだろうか? だけど、扉の外にいたのは意外な人物だった。

「おはよう……」

 少しきまりが悪そうに視線を逸らしたララベルだった。

「どうしたの?」

「昨日のお礼を持ってきた」

 ララベルは両手に大きな荷物を下げている。

「そんな気を遣わなくてもいいのに」

「そうはいかない。セラにばっかり苦労をかけて恩返しもしないとなったら、アタシの女が廃るってもんだよ。あ、あ、あ、上がらせてもらってもいいかい?」

 ララベルは顔を赤らめながら訊いてくる。言葉遣いは荒っぽいけど義理堅い性格をしているようだ。父親じゃなくてお母さんに似たのかな? 太陽はだいぶ高い位置に来て、気温も上がっている。直射日光の下はおしゃべりに向いた環境じゃない。

「狭いところだけどどうぞ」

 僕は中へ入るように促した。



 ララベルは珍しそうに部屋の中を見回した。

「これが男の子の部屋か……」