さっきまでの態度が嘘みたいで、借りてきた猫みたいにおとなしい。

 スキル『修理』発動。

 目立つ部分の傷だから、僕はいつもより丁寧に、細心の注意を払ってとりかかった。



 おおよそ三〇分後、ララベルの傷はすっかりなくなっていた。

「どう、気になるところはある?」

 手鏡を持つララベルの手が震えている。

「気にしてないなんて強がってたけど、本当はちょっと嫌だったんだ……。セラ、ありがとう」

「よかったね、綺麗になって」

 監獄長も涙ぐみながら喜んでいる。

「これで安心して帝都へ嫁がせられる」

「行かねーって言ってんだろっ!」

 お、元気も出てきたようだ。これ以上ここにいる必要もないね。早く帰ってサメの歯で武器を作りたい。

「それじゃあ僕は帰ります」

「おう助かったぜ、小僧。気ぃつけて帰れよ」

 そう言った監獄長の顔面にララベルの拳が炸裂した。腰の入ったいい右ストレートだ……。

「お礼もしねーで帰すのか、このケチ親父!」

 監獄長の巨体が音をたてて床に沈む。

「ははは……、お礼なんて別にいいよ。それより監獄長を治療しようか?」

 気絶したまま動かないぞ。死んではいないようだけど。

「だいじょうぶ、だいじょうぶ! 親父は打たれ強いから」

 ララベルは笑いながら手を振った。



       ◇



 その日は夜遅くまで自分の新しい武器を作るのに勤しんだ。サメの歯に穴をあけ、あらかじめ作っておいたワイヤーを通していく。このワイヤーは魔力を流すことによって伸縮自在となり強度も上がる。伸ばして使えば刃のついた鞭に、縮めて使うと切れ味の鋭いノコギリみたいな剣になるのだ。

 深夜までかかって剣を作り上げると、頭の中でいつもの声が響いた。

(おめでとうございます。スキル『作製』を習得しました)

 新しいスキルは道具作りに特化したスキルで、これをつかえば大幅な時間短縮が可能になる。これでたくさんの道具作りが可能になるだろう。

 外に出ると幾億もの星がぼんやりとした霞のように輝いていた。誰もいない通りを歩いて僕は街はずれに向かう。不審者じゃないよ。新しくできあがった剣、鮫噛剣(こうごうけん)の出来栄えを確認するためだ。あ、じゅうぶん不審者か。まあ、この世界で剣を持ち歩くのは珍しいことじゃない。