ララベルは薄い胸を張る。声にはどこか自慢げな響きがあった。ブルーマンティスというのは迷宮地下二階で最強と呼ばれる魔物で、体長五メートルにもなる大型のカマキリだ。硬い外皮と鋭い鎌で人に襲い掛かる。

「なんでそんなところに?」

「生まれた時からずっとここに閉じ込められていたんだ。一度くらい冒険をしてみたかったからに決まってるだろう!」

 その答えに僕は好感を持った。ララベルの瞳はクリクリしていて、好奇心にあふれてよく動く。たぶんだけど、この娘と僕は気が合う。

「顔に触れてもいいかな?」

「お、おう。べ、別にいいけど……」

 怒るかと思ったけど、ララベルは案外素直に頷いてくれた。スキャンの効果を最大にするためには直接触れた方が早いのだ。

 

 『スキャン』発動

 対象:ララベル・グランダス 身長一四九㎝ 一五歳

 固有ジョブ:投擲手

 スキル 

 投擲:武器を投げて敵に当てる術 命中補正プラス三〇%

 遠投:飛距離が五〇%伸びる

 戦闘力判定:Dプラス



 はじめて見るジョブだ。でも今はステータスより傷の具合を見ないと……。

「傷はすっかり癒着しているね。これは治癒魔法で治したの?」

「ああ、親父が治癒師を呼んでくれたんだ」

 傷跡まですっかり治せるほど腕のいい治癒師は少ない。そんな腕のいい治癒師はエルドラハには送り込まれないだろう。

「問題はこの層か……」

「どうせ無理なんだろ? アタシは気にしないぜ」

 治癒魔法により、傷口を修復するために密度の高い繊維組織ができ上っている。これが盛り上がって傷口を目立たせているのだ。

「うん、きれいに治せると思う」

「本当か!?」

「時間は三〇分くらいかかると思うけど、問題ない?」

「ああ……」

 ララベルが不思議そうに僕の顔を見つめてくる。僕は患者を安心させるためににっこりとほほ笑んだ。

「大丈夫だよ。そのままでも美人さんだけど、ちゃんと元通りにしてあげるからね」

「び…………」

「じゃあ、このソファーで治療をしよう。少し詰めてくれるかな?」

「うん……」

 いざ治療の段になるとララベルはすっかり大人しくなってしまった。お医者さんとか歯医者さんとかって怖いもんね。わかる、わかる。

「治療のために、もう一度傷口に触れるよ?」

「ん……」