「この傷を治していけ」

「いらねーつってんだろ!」

 ララベルが大声を張り上げる。

「ハア……、どっちなんですか?」

 僕は肩をすくめて踵を返した。

「おい、モルガン、ハッド、その小僧を止めろ!」

 僕を呼びに来た二人はモルガンとハッドというのか。初めて知ったよ。

 命令された二人は僕の進路を塞いだけど、顔には怯えの色が出ていた。交換所でさんざん引っ張りまわされたせいだろう。

「セラさん、悪いけどここを通すわけには……」

 敵わないとわかっていても命令されたら従わないわけにはいかないのが部下の辛さだ。叩きのめすのは簡単だけど、この二人には同情してしまう。

「いいかげんにしてください。患者に治す意思がないのなら治療はできません。僕は帰ります」

「待て!」

 監獄長の指先が発光して、そこから金色に光るロープが伸びてきた。ロープはぐるぐると僕を巻き上げて体の自由を奪う。ついでに魔力も吸い取っているみたいだ。これが監獄長のスキル『捕縛術』だな。このままでは本当に身動きが取れなくなってしまうぞ。

 発動、スキル『解体』

 僕を締め上げるロープは光の粒となって霧散した。思った通りだ。『解体』を使えばこの手の戒めは簡単に解除できる。ついでに『抽出』も使いマジックロープから失った魔力も取り戻しておいた。

「なんだとっ!?」

「親父のマジックロープがほどけた!?」

 顔は似ていないのだけど、同じリアクションを取っているのが面白かった。

「いきなり何をするんですか。もう、本当に帰らせてもらいますからね」

「ま、待ってくれ! 頼むセラ・ノキア。娘の傷を治してくれ!」

 はじめて名前を呼ばれた。恩も義理もない相手だけど、娘を思う親心と考えれば同情心が湧いてくる。

「なあ、どうやったんだ? すごいな、お前!」

 ララベルも僕に興味を持ったようだ。はじめて話しかけてきた。

「で、どうするの? 君の傷を治す?」

 質問すると、ララベルはキョトンとした顔になった。

「治せるのか?」

「ちょっと見せてもらっていい?」

「ああ……」

 ぷっくりとした肌には痛々しい傷跡が残っている。耳の付け根近くから鼻にまで伸びる大きな傷だ。

「これはどうしたの?」

「ブルーマンティスを討伐したときについちまったんだ」