長く監獄長をやっているだけあってスキルの数が多い。戦闘力判定はBプラスか。もっと高いかと思っていた。でも、考えて見ればC以上って滅多にいないんだよね。僕とかメリッサとかが特別すぎるのかもしれない。

「お前が噂の魔導錬成師か? 下層地区で奇跡の治療をすると評判の」

 僕の前に立った監獄長が低い声で訪ねてきた。こいつ、スキルの『威圧』を使ったな。たぶん、これから僕に言うことを聞かせるためにやったに違いない。こういうことをされるとやる気がそがれるんだけどなあ……。僕はお腹に力を入れて監獄長の『威圧』に耐える。

「噂のかどうかは知りませんけど、僕のジョブは魔導錬成師ですよ。どういったご用ですか?」

 僕が平然としていると監獄長の眉間にしわがよった。

「ガキのくせに根性が座ってるじゃねえか……。お前に診てもらいたい患者がいる」

 監獄長は言うことを聞くのが当たり前といった具合に話しかけてきた。これが人にものを頼む態度だろうか。

「娘さんがケガをしたと聞きましたが」

「その通りだ。そこに座っている子がそうだ」

 ソファーに座った子は監獄長と同じようにさっきから僕を睨みつけていた。ただこの子は目つきこそ鋭いけど、父親と違って美人だった。年齢は僕と同じくらいかそれよりも下。身長も少し低い。ピンク色の髪を頭の両サイドで二つに分けている。パッと見たところ元気そうなのだが、顔に大きな傷跡があった。

「怪我というのは顔の傷?」

「そうだ。父親の言うことを聞かずに迷宮なんかに潜るから」

「アタシは気にしないって言ってるだろう! これくらい別に普通だろが」

 エルドラハでは普通と言えば普通だ。戦う人が多いから、みんなどこかしらに傷がある。

「お前は将来帝都で暮らすんだ。顔に傷のある帝都のレディーなどいないのだぞ!」

「うるせーなー、レディーになんてなんなくてもいいよ!」

「やかましい! お前は帝都の貴族に嫁ぐのだ。それがお前の幸せなんだぞ」

「バカか!? そんな暮らしが幸せのわけないだろうが!」

「お前はなにもわかっておらん!」

 言い争いが始まった。

「取り込み中みたいですから帰りますね」

 親子喧嘩を観戦する趣味はないし、時間だってもったいない。鶏小屋と新しい武器を作りたいのだ。

「待て!」

 監獄長が慌てて僕を呼び止める。