シドは床の状態を確かめつつサンドシャークの追跡を開始した。斥候だけあって獲物の痕跡を見つけるのは誰よりも得意だ。

「見ろ、帯状に砂の跡がついているだろう? これがサンドシャークの通った証拠だ。一、二、三……、六体以上の群だな……」

「それなら浮袋が六つだね!」

「嬉しそうな顔をするな。こっちは命がけなんだからな!」

「心配しなくても大丈夫だよ。シドは若返ったんだから」

「まあ、全盛期の俺なら切り抜けられるとは思うが……」

 シドはまだ自分の体力に自信がないようだ。

「サメの弱点は多くの神経が集まる鼻柱だから、そこを狙えば大丈夫さ」

「よくそんなこと知っているな」

 ナショナルジオグラフィックで読んだことがあると言っても通じないか。もっとも、サンドシャークと地球のサメでは全然違うとは思う。サンドシャークは強力な土魔法を使い、砂岩の中を泳ぐように移動する。見た目はホオジロザメでもその生態は別物だろう。



 それはあまりに唐突だった。石の床が足元でぐにゃりと変化して、口を開けたサンドシャークが襲ってきたのだ。砂と化した床に足を取られたけど、素早さのパンを食べた僕らは余裕を持って避けることができた。

 雷撃のナックルが鼻頭に命中すると、サンドシャークは硬直して動かなくなった。神経が鼻に集まるのはこの世界のサメも一緒らしい。メリッサも曲刀をサンドシャークのエラに深々と突き刺して仕留めていた。一瞬しか見えなかったけど、攻撃を紙一重で交わして反撃していた。無駄のない動きは合理的で、背筋が寒くなるほどだ。氷の鬼女とはこういうところからついたあだ名なのかもしれない。僕にとっては守護天使だけどね。

 リタは手傷を負わせたものの、残念ながら逃げられてしまっている。

「不利になるとすぐに砂に潜ってしまうのが厄介よね」

 追跡が難しい魔物であることは確かだ。

「じゃあ、浮袋を回収するからみんなは休憩していて」

 スキル『解体』を使えばたいした手間はかからない。ナイフで腹を捌かなくても浮袋は簡単に取り出せる。しかも、スキルで失ってしまう魔力も拾った魔結晶から『抽出』で補えるのだ。我ながら迷宮向きの体になったものだ。

「そうだ、サンドシャークの歯を利用しようと思っていたんだよな」

「なんに使うの?」

 リタが僕の手元を覗き込んでくる。