野菜を切り、肉と炒めて、そこに小麦粉を振りかけてさらに炒める。迷宮の小部屋にいい匂いが立ち込めていく。

「メリッサ、ミルクをちょうだい」

「なんに使うのかと思ったら、これのためだったのだな」

 水とメリッサの氷冷魔法で凍らせておいたミルクを鍋に入れて煮込んでいく。小麦粉が作用してとろみがついてきた。少し煮込んで塩を入れれば完成だ。

「うーん、いい匂い。美味しそう!」

 リタは僕の肩越しに鍋の中を覗き込んでいる。ちょっと近すぎる……。

「セラにくっつくな」

「なに、メリッサったら嫉妬しているの?」

「セラの邪魔になる」

 一触即発しそうな二人に味見用のお皿を渡した。ケンカにならないよう、二つ同時に。

「飲んで塩加減を確かめて」

 突然お皿を差し出された二人はびっくりしたみたいだけど、同時に口をつける。

「美味しい!」

「うむ!」

 二人とも気に入ってくれたようだ。

(おめでとうございます。スキル『料理』を習得しました!)

 魔導錬成師のスキルには『料理』なんてものまであるの? あ、しかもただの料理じゃないや。魔結晶を使って、限定的ながらマジック効果を付与することもできるようだ。本当に体力のステータスが上がるスタミナ料理なんかも作れそうだぞ。決戦の前に食べたら良さそうだね。さっそく、明日の朝食で試してみるとしよう。たっぷりとシチューを食べて、その日は早めに休むことになった。



 翌日は早朝からパンを焼いた。スキル『発酵』があるので、パン種がなくてもフライパンでふっくらとした美味しいパンを焼くことができた。小麦粉も『改造』で細かくして、不純物も取り除いてある。

「こんな美味しいパンは初めてよ。私、デザートホークスでよかった!」

 食べるのが大好きなリタが大喜びしている。

「緑晶の効果をブレンドして『料理』したから、食べると素早さも上がるんだよ」

「そのようだな」

 メリッサが効果を確認するように高速で移動している。その姿は美しい舞を見ているようだ。どこか神懸かった感じさえする。でも、食べてすぐ動いたらお腹が痛くなっちゃうよ。

「効果の持続時間はおよそ四時間だからね」

「これで午前中の狩は楽勝かもね」

 リタの動きも普段よりずっと鋭かった。