魔結晶とは何かって? それは土中の魔素が結晶化したもので、魔道具や魔法薬の材料になるエネルギーの塊だ。迷宮では床や壁に露出していることが多い。僕たち囚人はこの魔結晶を拾ってくるよう、エブラダ帝国に義務付けられている。迷宮には危険な魔物がうようよいるけど、ストライキなんてもってのほかだ。ほら、今日も監獄長のダミ声が拡声器から聞こえてきた。

「聞け、クズども! ここのところ魔結晶の採取率が下がっている。これもひとえにお前たちのなまけ心が原因だ! もっと気合を入れて採取に励め、わかったかあ!」

 いまだって限界まで頑張っているというのに無茶を言いやがる。でも監獄長グランダスには誰も逆らえない。身長三メートル以上もある巨体の持ち主で、この収容所を牛耳っているのが奴だ。それに、迷宮から魔結晶を持ち帰らなければ今夜食べる物さえ交換できない。というわけで、今日も僕は迷宮入り口前の広場までやってきている。これから僕はポーターとして魔結晶の採取に出かけるのだ。

「セラ、本当に行く気か? 今日は休んだ方がいいんじゃないのか?」

 見送りに来たシドが心配そうに訊いてきくる。シドの太ももには包帯が巻かれ、うっすらと血がにじんでいた。三日前に地下へ潜ったときに魔物に襲われて傷を負ってしまったのだ。かつては腕のいい斥候(スカウト)だったそうだけど、今ではすっかり年を取って、昔の勘も鈍っているらしい。

「大丈夫、走るのは難しいけど、荷物持ちくらいならできるから。しっかり稼いでシドの分の食べ物も手に入れてくるよ」

 シドには返しきれないほどの恩がある。こういう時こそ役に立ちたい。

「すまねえ、セラ。俺がドジを踏んじまったばっかりに……」

「気にしないで」

 ケガをしたシドのためにも魔結晶を手に入れて、食べ物と交換しなくてはならないのだ。それに今日は待ちに待った僕の誕生日だ。この世界に来るときにシステムさんは言った。三年経って魂がこの世界に慣れたら固有ジョブが与えられるって。いよいよその日がやってきたのだ。

「てめえら、準備はできているか? 今日もしっかりと働けよ」

 チームリーダーのピルモアが大声を上げた。ケチで優しさの欠片もない嫌な奴だけど、一緒に行動しないわけにはいかない。