寝息を立てるセラを膝に抱き寄せて、メリッサは不思議な気持ちになっていた。弟がいたら姉はこんなことをするのだろうか? それとも年下の恋人? 母性とも恋心ともつかない感情が湧き上がっている。
かつてこれほど、身分に関係なく自分を恐れないで、親切で、理解してくれる者はいなかった。これからだって、セラのような存在は現れないかもしれない。そう考えると、無防備に自分の膝で眠る少年が愛おしくてたまらなかった。
メリッサは優しくセラの髪を撫でた。銀色の毛は柔らかく、スベスベと指をくすぐる。起こしてしまうかもしれないと心配しながらもやめることができない。
ふいに、セラの首筋に妙なものが見えた気がしてメリッサは髪の毛をかき分けた。痣? そうではない、これは紋章だ。盾にとまった鷹の意匠。グランベル王国が誇る四大伯爵家の一つ、ノキア家の紋章だった。
「失礼いたします」
替えのお茶を運んできた侍女がセラとメリッサの姿を目にとめて驚く。だが、侍女は何も見なかったふうを装った。
「アムル、至急タナトスを呼んできてくれ」
感情が表に現れにくいと言われる姫であったが、侍女のアムルもこのときばかりはメリッサが焦っている様子がよくわかった。
タナトスはすぐにやってきた。
「姫様、いかがされましたか?」
「これを見ろ」
「紋章? これは守護の鷹! まさかとは思っていましたがこれで確信が持てました。やはりセラ殿はノキア家の跡取り」
「うん……私の許婚だ……」
グランベル王国において、王女は四大伯爵家に嫁ぐのが慣例だった。順番から言って、メリッサはノキア家との婚姻が決まっていたのだ。
これまでのメリッサだったら今さらそんな慣例など気にも留めなかっただろう。たとえ亡国の王女とならなかったとしても、親の決めた結婚などしたくないと突っぱねたかもしれない。だが、相手がセラだというのなら話は別だ。メリッサはセラの紋章を隠すように髪を撫でつけ、そして優しく抱き直す。まるで誰にも渡さないと言わんばかりに。
◇
優しく揺すられて目が覚めた。窓の外が夕焼けで真っ赤になっている。だいぶ眠っていたみたいだ。
「夕食の支度が整う。食堂に行こう」
メリッサは平静を装った感じで言うけれど、表情を見ると、どういうわけかかなり動揺していた。
「どうしたの?」
かつてこれほど、身分に関係なく自分を恐れないで、親切で、理解してくれる者はいなかった。これからだって、セラのような存在は現れないかもしれない。そう考えると、無防備に自分の膝で眠る少年が愛おしくてたまらなかった。
メリッサは優しくセラの髪を撫でた。銀色の毛は柔らかく、スベスベと指をくすぐる。起こしてしまうかもしれないと心配しながらもやめることができない。
ふいに、セラの首筋に妙なものが見えた気がしてメリッサは髪の毛をかき分けた。痣? そうではない、これは紋章だ。盾にとまった鷹の意匠。グランベル王国が誇る四大伯爵家の一つ、ノキア家の紋章だった。
「失礼いたします」
替えのお茶を運んできた侍女がセラとメリッサの姿を目にとめて驚く。だが、侍女は何も見なかったふうを装った。
「アムル、至急タナトスを呼んできてくれ」
感情が表に現れにくいと言われる姫であったが、侍女のアムルもこのときばかりはメリッサが焦っている様子がよくわかった。
タナトスはすぐにやってきた。
「姫様、いかがされましたか?」
「これを見ろ」
「紋章? これは守護の鷹! まさかとは思っていましたがこれで確信が持てました。やはりセラ殿はノキア家の跡取り」
「うん……私の許婚だ……」
グランベル王国において、王女は四大伯爵家に嫁ぐのが慣例だった。順番から言って、メリッサはノキア家との婚姻が決まっていたのだ。
これまでのメリッサだったら今さらそんな慣例など気にも留めなかっただろう。たとえ亡国の王女とならなかったとしても、親の決めた結婚などしたくないと突っぱねたかもしれない。だが、相手がセラだというのなら話は別だ。メリッサはセラの紋章を隠すように髪を撫でつけ、そして優しく抱き直す。まるで誰にも渡さないと言わんばかりに。
◇
優しく揺すられて目が覚めた。窓の外が夕焼けで真っ赤になっている。だいぶ眠っていたみたいだ。
「夕食の支度が整う。食堂に行こう」
メリッサは平静を装った感じで言うけれど、表情を見ると、どういうわけかかなり動揺していた。
「どうしたの?」