修理を終えた僕はメリッサの部屋に招待された。とにかく広い! 僕の部屋の十倍はあるんじゃないかな? 品の良い調度品がそろっていてゴージャスだ。クッションがたくさん敷かれた寝椅子に僕とメリッサは並んで座った。

「すごいなあ、メリッサは。そういえば皆が君を姫様って呼んでいたけど、僕もそう呼んだ方がいいのかな?」

 メリッサはふるふると首を横にふった。

「今まで通りメリッサでいい」

「うんわかった。僕の両親はグランベル出身だったらしいから一応聞いてみただけ」

 メリッサがピクリと反応する。

「グランベルのどの辺り?」

「さあ、詳しいことは聞いていないんだ。僕はエルドラハ生まれだからね。だからグランベルの民って意識は薄いかな」

 前世は日本人だし。

「私はしがらみに捕らわれ過ぎている」

 メリッサの表情は少し悲しそうだった。四〇名もの臣下に囲まれている生活はプレッシャーなのかもしれない。

「メリッサもいろいろと大変なんだね」

 そう言うと、メリッサは僕に体を傾けてきた。

「セラは優しい。セラは私を怖がらない。セラといると楽だ」

「怖がる? 誰がメリッサを怖がるの?」

「みんなだ。私は強いし、何を考えているかわからないと言われる。表情が乏しいのだろう」

 メリッサは自分のことを強いというけれど、自慢している感じではない。事実を淡々と述べているだけのようだ。それから表情が乏しいか……。

「表情が乏しいなんて嘘だよ。僕にはわかるもん。今だってメリッサはとても悲しそうだ」

「わかるのは……セラだけだ」

 たくさん話すわけじゃないけど、メリッサは僕といて楽しそうだった。日が傾いて暑さもだいぶマシになっている。吹き抜けていく風が気持ち良かった。

「このお茶、美味しいね」

「ジャスミン茶だ」

 初めて飲むお茶だったけど、とてもリラックスできる気がする。

「なんだか眠くなってきちゃった。魔力を使いすぎたかな」

「眠ればいい。夕食を用意させるからここで休んでいけ」

「そう? ……じゃあ、お言葉に甘えて……」

 目を閉じると、メリッサの指が僕の頭をなでている感触がした。僕はうっとりと身を任せる。風に更紗のカーテンが微かに音を立てている。静かで落ち着いた午後のひと時。そしていつしか僕は眠りに落ちていた。



       ◇