まだ血の滴る骨をリタが持ってきてくれる。

「いいよ、そのまま穴に投げ入れて。もう少し時間がかかりそうだからリタは肉を焼いておいてよ。それでお昼ご飯にしよう」

「任せといて」

 リタはすらりと剣を抜いた。お得意のフレイムソード焼きをしてくれるのだ。

 農業用の土が完成するのに三〇分がかかった。でも用意した穴の土は黒々としていてホカホカと湯気を立てている。

(おめでとうございます。スキル『発酵』を習得しました!)

 今度は発酵に特化したスキルだな。これで次回からは土づくりの時間が短縮するに違いない。お酒造りも簡単にできそうだ。きっとシドが喜ぶだろう。

「持ってきたスイカの種やジャガイモを植えちゃう?」

「それはまた今度でいいよ。どれくらいの深さに植えるかもわからないもん。今日はここに置いておこう」

 前世の記憶にも農業の知識はないんだよね。

「だったらどうするの?」

「先日、固有ジョブが『農夫』のおじさんを治療したんだ。その人に相談してみる。謝礼が折り合えば、作物を育てるのを任せてみようと思っているんだ」

 畑はもっと大きくしたいから明日も砂を運んで来よう。ついでに農夫のジャカルタさんにも来てもらえるといいな。



 翌日も僕は砂を運んだ。シドとリタは別行動で採取に励んでいる。僕はジャカルタさんと二人で地下一階第八区の秘密農場へ移動した。

「おお……」

 畳一畳ほどの畑を見てジャカルタさんが涙ぐんでいる。

「どうしたんですか、どこか痛いところでも?」

「そうではありません。そうではありませんが……」

 ジャカルタさんは嗚咽まで漏らして泣き始めてしまった。

「ジャカルタさん……」

「失礼しました。ですが私は感動してしまったのです」

「感動?」

「はい。ご存知の通り、私の固有ジョブは『農夫』です。ですがこの収容所に来て以来、ずっと畑というものを見ておりませんでした。八年ぶりに畑を見て、私の血がざわめいたのです。魂が震えました……」

 家庭菜園ともいえないくらいの小さな畑が大人の人をこんなにも感動させるんだ。

「それでは……」

「はい、ぜひ私にも協力させてください。ここに一大地下農園を作り上げましょう!」

 その日、僕は新しい畑を作り、ジャカルタさんはスイカの種をまいた。

「どれくらいで芽がでるのかな?」