「畑を作るための道具だよ。あ、ここなんかいいんじゃないかな? 入ってみよう」

 目の前の部屋に続く扉を開けると、中にいた一角兎が二頭で突進してきた。ウサギと言っても可愛いのを想像しないでね。こいつは体長が一メートルはある恐ろしい魔物だ。槍のような鋭い角が迫ってきたけど、僕は根本を手でつかみ、壁に叩きつけて戦闘を終わらせた。

「常識外れな戦い方をしやがって……。最近可愛げがなくなってるぞ」

 シドが倒れた一角兎を覗き込んだ。

「いいじゃない、夕飯のおかずができたわ。今日はウサギのシチューにしましょう」

 リタは肉が得られて満足そうだ。レッドボアと同じで一角兎も食べられる魔物だ。

 僕は部屋を見回して確認した。一五メートル四方くらいの正方形の部屋で広さはじゅうぶんにある。第八区は魔結晶がほとんど採れない枯れた場所と言われているから人が来ることもないだろう。念のために扉を改造して鍵をつけておくか。

「よおし、始めるぞ! 僕は床に穴をあけるから二人は休憩していて」

「まったく元気な奴だぜ」

 さっそく畑となる場所を『改造』と『解体』で作っていく。石の床に二m×一m、深さ四〇センチの溝を作った。たいした広さじゃないから時間は五分もかかっていない。

「なんだこれは、俺の墓穴か?」

「サイズ的にはぴったりだけど、これは畑だよ。今から土を作るからね」

 畑の横に少し大き目の魔道具を二つ設置した。

「それはなんなの?」

「マジックランプを改造して作った人工太陽照明灯と、湧水杯(ゆうすいはい)を改造して作った散水機だよ」

 湧水杯は水が湧き出る器で、大きさはラーメンどんぶりくらいある。魔結晶を利用して水を作り出す魔道具だ。僕はそれを改造して散水機をつくったわけだ。

「この穴の中に運んできた砂と油かす、麦のふすまを入れるんだ」

「油かすや麦のふすまなんて何にするのかと思ったら土を作るためだったのね」

「その通り。最後に散水機から水も入れて、改造のスキルを発動させる」

 僕は両手を穴につっこみ魔力を流し込んだ。茶色い砂が湿り気を帯び、豊かな土壌へと変化していく。

「リタ、カルシウムとリン酸がほしいから一角兎の骨を持ってきて」

「かるしう? わかったわ」

 魔法により微生物の働きも活発になってきた。

「とってきたわよ」