「魔結晶や品物と交換するって考えはないの?」

「たぶんねーな」

「……不思議な子ね」

「昔っからそういうやつなのさ」

 まだ階段の下で喋っている二人に声をかけた。

「早く行こうよ! 大量の肉を捌くんだから!」

 みんな喜んでくれるかな? 美味しそうに肉を頬張る人々の顔を想像しただけで、背中のレッドボアも軽くなる気がした。



       ◇



 魔物や動物の解体というのは大変な作業だ。前世の知識に頼らなくても、それくらいは知っている。ただ、僕には魔導錬成師の力がある。『スキャン』や『修理』を駆使すれば、人よりも早く解体できる気でいた。

 触れたところからレッドボアの構造が頭の中に流れ込んでいる。これならなんとかいけるだろう。一番切れ味の良いナイフで解体を試みていると頭の中にまたもやいつもの声が響いた。

(おめでとうございます! スキル『解体』を習得しました!)

 今回も便利そうなスキルだ。『解体』は魔物や動物だけでなく、機械や建造物にも使える。なかなか応用範囲の広そうなスキルだ。でも今はレッドボアをなんとかしなくちゃね。助けた二人組や、近所の人、メリッサたちにも声をかけてある。気の早い人はもうお皿を持って集まりだしているぞ。
『解体』を使ってまずは血抜きをした。ナイフで入れた切れ込みからどんどんと血が流れだして、空中で球体を作っている。なかなかシュールな光景だ。

「すごい量だな」

「うん、八〇リットルはあるよこれ……」

 シドが指先でツンツンと血の塊をつついている。その指に血が滴った。

 さらにスキルを使って血液を水と他の物質に分けてしまう。水は完全な真水なので生活用にとっておく。他の物質は風に乗せて砂にまいた。

「ふう、これで一番難しいところは終了」

 続いて皮を剥ぐ。こちらも衣料として使えるので『改造』でなめしていつでも使えるようにしておいた。余分な内臓を取り除き、先ほどの水で洗浄し、最後に骨と肉を分けて適当な大きさに切りそろえる。

「どうしよう、肉を盛り付ける皿が足りないよ」

リタが困ったように立ちすくんでいる。

「先日拾った大盾が二枚あるでしょう? 騎士が持っているようなカイトシールド。あれを洗って皿代わりにしよう」

 即席の大皿に肉が山盛りになり、近所の人が歓声を上げた。