災難に遭っていたのは二人組だった。まだ若い男女で、男の人は血まみれで倒れている。一人残った女の人がレッドボアと対峙していた。レッドボアは巨大なイノシシの化け物だけど、主な生息地は地下三階のはずだ。地下一階に現れるのは珍しい。女の人は風魔法の遣い手のようでウィンドカッターでレッドボアと戦っているけど、レッドボアの皮は分厚いので苦戦しているようだった。

「二人はレッドボアをお願い。僕は怪我人を見ます」

「まかせておいて!」

 リタはやたらと張り切っている。そう言えばリタの好物は肉だったな。レッドボアは迷宮では数少ない可食の魔物だ。名前の通りイノシシの肉と同じ味がする。塩と胡椒をかけて焼いたボアグリルはエルドラハでは一番のご馳走だ。あれだけ本気ならリタ一人でも倒してくれるだろう。僕は戦闘には加わらず怪我人を直すことに集中した。

「しっかりしてください!」

「うぅ……」

 意識はまだあるようだ。傷口に手を当ててスキャンを発動する。鋭い牙で腹を切り裂かれたんだな。傷口は七センチ、裂傷は内臓にまで達していた。

「すぐに楽になりますからね。じっとしていください」
『修理』をつかって先に止血をしてから、内臓の治療から始めた。怪我人を診るのはこれで三人目だ。まだまだ経験が浅いので治療には時間がかかりそうだけど、今回は仲間が二人もいる。僕は安心して治療に専念できた。

「いよっしゃあっ!」

 リタの声が迷宮に轟いた。床には首のないレッドボアが横たわっている。

「シドとリタは周囲を警戒して。レッドボアの仲間がいるかもしれないから」

「仲間!? それも狩っちゃる!!」

 リタが猛獣みたいになっている。今夜はみんなでバーベキューだな。

「ぐあああっ!」

 意識がはっきりしたせいで、患者が痛みで苦しみだした。ここまで深い傷だと一気に治すことはできないのだ。

「動かないでね。治したところがまた広がっちゃうから」

 呼びかけるのだけど男の人は身をよじって動こうとする。いっそ雷撃のナックルで気絶させてしまう? いやいや、そんな乱暴なことはダメだな。

「カネオン、動いちゃだめだよ」