「材料に人の生命エネルギーが使われていますね。装備者を禍から守る護符の役割を果たしているのか……。これは大切な方からの贈り物ですか?」

「母の形見だ」

 お姉さんは驚いたように僕の瞳を見つめていた。

「台座に亀裂……それと鎖がちぎれているな。鎖の方はすぐにつながるけど、問題は呪文が描かれた台座か」

「治るのだろうか?」

「ちょっと時間がかかりますよ」

「いくらかかっても構わん。対価も言い値で払おう。私の名前はメリッサだ。魔導錬成師セラ・ノキア、頼むから直してくれ」

「わかりました。じゃあどこか日陰に移動しましょう。四〇分くらいかかりますので」

「そんなに早く!?」

 移動の途中でメリッサは氷の浮かぶ冷たいバラ水を買ってくれた。屋台の商品といってもエルドラハでは高級な飲み物だ。クールな見た目をしているけど、案外優しい人なのかもしれない。



 魔法言語が書かれた部分の修復に手間取ったけど、メリッサのネックレスの修理は終わった。

「どうですか?」

「うん、すっかり元通りだ……、ありがとう」

 ずっと難しい顔をしていたメリッサの口元に小さな笑みが広がっている。それを見ただけで修理をしてよかったと思えた。

「それじゃあ僕はこれで」

 買い物が済んでいないというのに太陽は西の空に傾いている。市場には迷宮から戻ってきた人々で込み合いだしていた。

「待って、代金を払うから」

「いいの、いいの。バラ水を買ってもらったし、それでじゅうぶんだから!」

 早くマジックランタンを見つけて帰らないと夜になってしまう。僕は手を振って人混みの中に入っていった。



       ◇



 シドが返ってきたのは翌日のことだった。

「ただいま~」

「ずいぶんとお楽しみだったみたいだね……」

 僕の冷たい視線に、シドは照れたようにうなじを掻いていた。

「いや~、久しぶりだったからよぉ」

「今日はリタも来るんだからちゃんとしてよ。みんなでチームを組んで稼ぐんだからね」

「わかってるって。ミノンちゃんにまた来るって言っちまったから、俺も頑張るよ」

「ミノンちゃんって誰?」

「飲み屋の踊り子だよ。情熱的なダンスをするから、すっかりファンになっちゃってさ」