やれやれ……。僕は肩をすくめて、まだ太陽が白く輝く街へと繰り出した。



       ◇



 一番熱い時間帯ということもあって、エルドラハの市場は閑散としていた。天幕を張った露天商が十数人いるくらいで客はほとんどいない。ここが混むのは、人々が採取に出る前の朝と、迷宮から帰ってくる夕方なのだ。僕は露店を巡ってマジックランタンを探した。

「こんにちは。マジックランタンはありませんか?」

 一件目の道具屋で訊いてみる。ここには迷宮から持ち帰られた珍しい道具が並んでいた。

「ランタンは品切れだね。代わりにマジックコンロはどうだい? 火力調節ができるコンロだよ」

 これがあれば料理が楽にできそうだ。

「いくらですか?」

「今週はこれ」

 おじさんが値段票を見せてくれた。赤晶なら三〇〇g、青晶なら二五〇g、黄晶なら二〇〇g、緑晶なら一五〇gか。魔結晶の価値は週ごとに変動するので値段はころころ変わる。今週は緑晶の取れ高が少ないようだ。ちなみに黒晶や白晶、金晶や銀晶となると、これらの十倍から百倍の価値がある。

「じゃあ、これを下さい」

 僕は赤晶三〇〇gで支払いを済ませた。じっさいには三一三gあったけど、プラスマイナス三〇gは文句を言わないというのが暗黙のルールだ。細かいことを言うのはカッコ悪いとされる。マジックランタンはなかったけど、いい買い物ができたので満足だった。

 さて、次のお店にマジックランタンはあるかな? 僕は隣の店へと移動した。今度の店は魔道具師がやっているお店で、『よろず修理 承ります』と出ていた。

 なるほど、僕だって『修理』ができるのだから、こういう商売もありだと思う。僕がやるのだったら、壊れたマジックアイテムの買い取りなんかでもいいだろう。そうすれば必要なものを集めやすそうだ。

 台の上に置かれた売り物を見たけど、マジックランタンはなかった。ひょっとしたら売り場に出ていないだけかもしれない。店主に聞いてみようと思ったけど、僕の前に先客がいた。金糸の縁取りがある黒いフードを被った人だ。背は高くないようだけど独特の雰囲気がある。まるでアサシンとか忍者って感じだった。

 どうやらアイテムの修理を頼みに来ているようで、魔道具師はアイルーペを使って念入りに客のネックレスを確認していた。

「直るだろうか?」