◇

 自室に戻ると、アイスロッドや魔結晶など、必要な材料を丁寧に床に並べた。これに『修理』と『改造』をくわえてエアコンを作り上げていく。特に困ることもなく作業は進み、およそ一時間後には完成した。

 出来上がったのは縦長で窓に取り付けるタイプのエアコンだ。重量は四〇キロ以上あったけど、力持ちになった僕は軽々と持ち上げて窓に設置してしまう。空いたスペースには『改造』で作った砂岩を埋め込んでおいた。

「部屋の中が真っ暗になっちゃった……」

 窓は一つしかなかったし、扉も締め切るとなると光源はどこにもない。仕方なく非常用のロウソクを付けると狭い部屋がぼんやりと明るくなった。これで準備はできた。

「よし、スイッチオン!」

 エアコンの正面につけた小さなボタンを押すと、石板に氷冷魔法と風魔法の呪文が浮かび上がり、冷風が出てきた。

「あはは、つめたーい!」

 我ながらいい仕事をしたものだ。この部屋は四平米くらいしかなく、ベッドを置いてしまうとほぼほぼいっぱいになってしまうくらい狭い。おかげで温度が下がるのも早かった。

「涼しいなあ……」

 薄暗い部屋の中で、僕は前世以来で楽しむ涼に浸っていた。でも、人間の欲望は尽きることがないようだ。なまじ前世の楽な暮らしを知っているだけに僕にとってそれは顕著なのかもしれない。

 最初に思ったのは部屋が狭すぎるということだった。エルドラハの住民は魔結晶を対価に監獄長から月ぎめで部屋を借りる。僕やシドが住んでいるのは最下層の部屋だ。当然のごとく狭い。これからは収入も上がるだろうから、もっと広い部屋に引っ越したいものだ。

 部屋数に余裕のあるところに引っ越したら、風呂を付けたり、冷蔵庫も置いたりしたい。家具なんかも欲しいな。ここでは木製の家具は超高級品なんだよ。家具になるような太い樹なんてどこにもないからね。

 でも、今いちばん欲しいのは灯だね。そろそろロウソクが消えそうなんだよ。いくら涼しくても真っ暗な部屋の中では過ごしにくい。市場でマジックランタンを買ってくるとしよう。

 マジックランタンは赤晶で光る照明器具だ。これまでは手が出せなかったけど、今なら魔結晶もたくさんある。ランタンを買ったら、ついでに二人分の夕飯も買っておくとしよう。でも、シドはいつ帰ってくるんだろう? 元気になった体で楽しみまくっているのかな?