いいことをひらめいたので僕はピルモアの拳を掴んだまま『修理』のスキルを展開した。といっても、奴の体を修理したいわけじゃない。スキルを発動すると物の構造を理解できるので、そうやってピルモアの肉体を調べようと思いついたのだ。

 やっぱりだ、奴の体力や病気の有無がすぐに分かった。それどころか、さらに魔力を強めていくと固有ジョブや所有スキルまでわかってしまう。ピルモアの固有ジョブは盗賊(バンディット)でスキルは強奪(強攻撃しながら物を奪う)だ。見た通りなんだね……。

「邪魔しないでくれるかな? 僕は忙しいの。それと――」

「は、離せ」

 ピルモアは身をよじって手をほどこうとしたけど、僕は構わず握りしめてさらにステータスを探っていく。

「お酒の飲み過ぎだね、肝臓が疲れている。それに淋病にもかかっているよ」

「淋病?」

「性病の一種。オシッコするときに痛くない?」

 表情から察するに、僕の指摘は図星だったようだ。『修理』で治療もできるけど、ピルモアのためにやる気にはならない。

「お前、なんで……」

 掴んでいた拳を放すと、ピルモアはよろけてしりもちをついてしまった。

「情報はサービスにしておくよ。僕は忙しいからもう関わらないでくれるかな?」

 高速で背後に回り込んだから、ピルモアは僕が消えてしまったと思っただろう。まだ砂の上に座り込んでいるピルモアの襟を左手で掴んで立たせてやった。鎧ぐるみの巨体が軽々と宙に持ち上がる。

「うわっ!?」

「さあ、もう行って。本当に邪魔だから」

 悪い夢でも見ているかのように、ピルモアは怯えながら去ってしまった。

 会いたくもない奴に会って気分は悪かったけど、触れることによって相手のステータスがわかるという発見は収穫だった。もっとも、触れなければわからないのだから、魔物相手には難しいかもしれない。

(おめでとうございます、スキル『スキャン』を習得しました!)

 いきなり頭の中で声が響いた。どうやら新しいスキルが発現したようだ。スキャンは五感を使って対象のステータスなどを読み取れるようになるスキルだ。修練を積めば積むほど詳細な情報がわかるようになるらしい。これは中々便利なスキルが発現したな。必要な材料もそろい、新しいスキルまで得た僕は、ウキウキと弾む気分で自分の部屋へ帰った。