シドは外へ出て短剣を構えた。低い体勢をとってゆっくりとヒットアンドアウェイを繰り返す。そのうち足技を入れたり、横移動などの変則的な動きがそれに加わった。

「おお!」

 シドは黙々とスピードを上げていく。シドの戦闘スタイルを見るのは久しぶりのことだけど、驚くほど速い。

「すごいじゃないか、シド!」

「いや、すごいのはセラだ……。全盛期とはいかないが体の切れが二十年前くらいには戻っていやがる……」

「時間をかければもう少しくらいは戻るよ。それ以上は体に負担になりすぎるから無理だけど」

「まだ若返るのか!?」

「うん。でもすごく大変だから、これをするのはシドだけね。他の人には内緒だよ」

「もちろんだ!」

「ねえ、これでシドも一緒に迷宮にはいれるよね? 一緒にチームを組めるよね?」

「そうだな……。ありがとう、セラ。なんだか気持ちまで若返ってきたぜ」

 シドはごつごつとした大きな手で僕の手を握った。

「明日になったらリタがうちにくるんだ。そうしたら、チームについて話し合おうよ」

「わかった。それじゃあ俺は……」

 シドは落ち着かなく周囲をきょろきょろと見回している。

「どうしたの?」

 おもむろに立ち上がると、シドは壁の割れ目へと手を突っ込んだ。引っ張り出したのは割と大きめの黄晶だ。もしかして、へそくり?

「ちょっと出かけてくる」

「装備を買いに行くの? それなら大丈夫だよ。迷宮の中でいっぱい拾ってきたから。修理と改造をしてからシドにも渡すよ」

 改造を使えばサイズ調整だってできるからね。でもシドはあいまいな笑顔を作った。

「それはありがたいんだが、その……ちょっと野暮用でな」

「そうなの?」

「ああ、繁華街に行って久しぶりに……な」

「あ、お姉さんのいる店にお酒を飲みに行くの?」

「うん。体も気持ちも若返りすぎちゃったみたいでよ……」

 シドはお酒と女の人が大好きなのだ。

「じゃあ、また明日……」

 シドはそそくさと出かけてしまった。また明日って、今夜は帰ってこないつもりだな。まったく、シドにも困ったものだ。



 シドが出て行ったので部屋の中はしんと静まり返ってしまった。大きさは二メートル×三メートルくらいで、アメリカ映画でみた牢屋のように狭い。電灯もないので薄暗く、いっそう侘しい感じがする。