発着場では三機の飛空艇が出発のときを待っていた。パミューさんとエリシモさんは本日をもって帝都グローサムへ帰るのだ。

「いろいろと世話になったな……」

 アヴァロンを大破させてしまったことでパミューさんの顔は暗かった。

「帰ったら、パミューさんが皇帝に叱られますかね?」

「ひょっとしたらエルドラハに流刑になるかもしれないな。そのときは私をデザートホークスに入れてくれ」

「ええっ!?」

「はっはっはっ、冗談だよ。皇帝陛下が派遣したカジンダスが裏切ったのだから、私が罪に問われることはないだろう」

 それを聞いて安心した。ひょっとしたらまた「一緒に帝都に来い」と言われるかと心配したけど、そんな発言もなかった。今回のことでパミューさんの性格はすこし丸くなった気がする。

 だけど、驚いたことに「一緒に来い」を言ったのはエリシモさんだった。

「セラ、私と一緒に帝都にこない?」

 それは真っ直ぐな瞳だった。

「どういうことですか?」

「私は貴方が欲しいの。貴方がいればどこの遺跡でも怖くないし、どんな場所でも行けるわ。お願い、ずっと私のそばにいてくれないかしら? 彼女との婚約も破棄して」

 パミューさんがあっけに取られて、口をあんぐりと開けている。まさかエリシモさんがこんなことを言いだすとは考えていなかったのだろう。僕も少しだけ驚いた。でも、この人はいざとなると意外と大胆だったりするのだ。

「僕は僕の行きたい場所に行きます。そしてそれは貴方の隣ではありません」

「無理にでも連れて行くといったらどうする?」

「ご存じのはずですよ、それは不可能だって」

 砂漠の熱風が僕とエリシモさんの間を吹き抜けていった。

「ええ、知っているわ。それに貴方が私と一緒に来てくれないってことも最初からわかっていた。ただ、何も言わずにさよならをして後悔したくなかっただけよ。ありがとう、セラ。元気で」

 風にはためく髪を押さえながらエリシモさんは飛空艇に乗り込んでいく。彼女の指の間に僕がプレゼントした髪留めがきらめいているのが見えた。姿が見えなくなるまで見送ったけど、エリシモさんが振り返ることはなかった。

 残されたパミューさんはもごもごと言葉をひねり出した。

「ち、近いうちにアヴァロンの残骸を調べに調査隊が派遣されるだろう。それまではあれに近づかないように……。あー、それから、エルドラハの待遇改善については私に出来得る限り善処してみる。うん……それでは達者でな」

 パミューさんも飛空艇に乗り込み、三機は編隊を組んで北の空へ旅立っていった。僕は小さくなる飛空艇を見送りながら仲間たちに声をかけた。

「聞いただろう、近いうちに調査隊だって」

 リタがニヤリと笑う。

「だったら急がないとダメね」

 ララベルはもう駆け出す直前だ。

「タンクを取ってくるよ。さっそく出かけようぜ!」

 シドは肩を竦めた。

「やれやれ、若いのは元気過ぎていけねえや」

 日陰で休んでいたレミアはあくびをかみ殺した。

「私は寝ているからアヴァロンのことは任せるわ♡」

 僕は傍らのメリッサに尋ねる。

「メリッサも一緒に行くだろう?」

「うん、セラと一緒に行く」

 再び強い風が吹いて砂塵を巻き上げる。僕らは背中にその風を受けながら一斉に動き出した。