リタは操縦席に座ってシートベルトを締めた。

「横に赤い取っ手のついたレバーがあるだろう? それを思いっきり引っ張るんだ」

「これかな……? うわあああああああああっ!」

 シートが斜め上に射出されて、リタは飛んで行ってしまった。パラシュートも無事に開いている。

「お次はメリッサだよ」

「うん……」

 メリッサは不安そうな顔で僕に尋ねてきた。

「セラは大丈夫なの?」

「もちろんさ、僕とシドもすぐに脱出するよ」

 僕は笑顔で頷く。そしてメリッサも同じように飛んでいった。今や辺りは真っ暗だ。今日は新月だから星が降るように輝いている。

「さてと、次は僕らのばんなんだけどさ……」

 言いよどむ僕の耳にシドの笑い声が聞こえてきた。

「わかっているさ。もう脱出方法はないんだろう?」

「ごめん……」

 四人を逃がすのが精いっぱいだったのだ。シルバーホーク0式を「修理」している時間も、素材を見つけてパラシュートを「作製」する時間も残されていない。

「まあ、そんなしけた顔をすんなよ。俺は斥候だから夜目が利くんだぜ。セラのそんな顔は見たくない」

 シドはポケットからゴソゴソと何かを取り出した。僕がプレゼントしたスキットルである。

「ふぅ、このブランデーはやっぱりうめえや。ほれ、たまにはセラも飲んでみろ」

 シドがスキットルを投げて寄こした。お酒なんてほとんど飲んだことはなかったけど、これで最後か。僕も蓋をひねって琥珀色の液体を口に含んだ。

「どうだ?」

「口と喉を火傷をしたみたい。あ、でも、けっこう美味しいかも」

「へっへっ、そうかい。お前もいける口になるかもな。うん……なんだか、夢がかなっちまったぜ」

「夢?」

「ああ、セラが大人になったら、こうして酒を酌み交わしたいとずっと思っていた」

「シド……」

 小さいころからずっと僕の親代わりだったシド。本当は助けてあげたいけど、もう僕にはどうしようもない。

「ごめんね、シド」

「もう謝るなよ。それよりもう一口酒をくれ」